ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 最後の一週間の始まり2

「彼氏には絶対ばれないようにするからさ。ばれちゃったらマズイのは俺たちも一緒だからさ」
 棚田がまるでばれるかばれないかのスリルを楽しんでいるかのように言う。
「ウイッグ被ってサングラス掛けてりゃ誰も志穂ちゃんだとは思わないよ。こんな淫乱な女と男みたいなボクっ子が同じだとは……」

(犯されるんだ……。圭一のいる同じ場所で……)
 圭一のいるところで……、犯される。そう思うだけで体が熱くなる。
(あっ、……)
 その時、太腿にツーッと流れる液体を感じた。



 西工のグランドには、優勝候補同士の練習試合とあって活気に溢れていた。校舎脇でグランドに目を向ける志穂のところまで、選手たちの声が聞こえてくる。もっとグランドの近くで応援したいが、そういう訳にもいかない。佐々木たちはハワイ土産のTシャツを着ている。ウイッグを被りサングラスを掛けた志穂も同じくTシャツ姿を強要されていた。まるで、ビーチで水着の上にTシャツを羽織った女性のような格好だ。アメリカンサイズの大きめのTシャツは、華奢な志穂の身体を隠してくれてはいるが、それ以外の物を着ることは許されていなかった。下着はおろかスカートも身に纏わずTシャツだけしか着ていない。こんな姿で圭一に声援を送る訳にはいかない。ただ遠くから圭一の頑張る姿に応援の視線を向けるがやっとだ。
(圭一……、気付かないで……)
 志穂は築かれることを心配しながらも、グランドをボールを追って走る圭一に応援の視線を送った。

 グランドで両チームの応援に訪れている生徒たちには、優勝候補同士の練習試合と共に気になることがあった。

 サングラスは掛けていても美少女とわかる端正な顔立ちとロングヘアは、両チームの応援に来ている観客の目を引いた。よく見れば、大きな胸がTシャツを押し上げ、その頂点がポツリと尖っているのも判るだろう。西公園の痴女の噂が広まっていることもあり、なおさら志穂の姿は衆人の目を引いた。

 練習試合の観客、生徒たちは、試合展開も気になるが、それ以上に後ろで試合を見守っている志穂のことが気になってちらちらと振り返り視線を向ける。
「おい、あれ、西公園の痴女じゃねえ?」
「西公園の痴女ってうちの生徒か?」
「そんな訳ねえだろ。うちの高校にあんなかわいい子いねえぜ」
「じゃあ、東高の生徒か? 応援に来てるってことは」
「でも、佐々木たちと一緒だぜ。やっぱりうちの生徒か……」
「意外と年上だったり……。佐々木たちと関係があるってことは、結構やばい子じゃね」
「痴女ってことだけで、もうやばくね?」
 振り向く生徒たちの会話が聞こえてきそうな、そんな気がして志穂の身体は熱くなっていく。

「そろそろ始めようぜ」
 練習試合の観戦に飽きた佐々木たちはグランドを後にした。
「じゃあ、部室脇のトイレはどう?」
「いいね、行こう行こう」
「あそこなら線香たちに見つかる心配もねえからな」
 圭一を陰からでも応援したい気持ちの志穂ではあるが、今の恥かしい格好を見られたくない。一時でも早くこの場所を離れたい、気付かれる前に……。志穂は佐々木たちに連れられ、その場を離れた。

 志穂が連れてこられたのは、体育会系の部室が並ぶ端にあるトイレ。精神修行の一環として運動部の部員たちで清掃されているトイレは、落書き等はあるものの意外と清潔に保たれている。
「お前ら、見張っとけ」
 志穂を男子トイレの個室に押し込めた佐々木は、棚田たちにそう言うとドアを閉めた。

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