僕の転機
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■ 第12章 落胆3
歩美を抱き上げ、ソファーを移動させて、パソコンの前に座らせる。
パソコンを操作するとモニター一杯に、真っ白な肉の塊が映し出される。
一同、それを見て驚く。
すると、パソコンのスピーカからクスクスと笑う声と、ハスキーボイスが流れ出す。
頭を抱えながら、苦笑し昌聖を指差す。
「ディディェ。冗談は止めてくれ…」
宗介がマイクに向かって喋ると
「ご免なさい。でも、良かったでしょ?」
そう言いながら、モニターにバストショットを映す、ディディェと呼ばれた、プラチナブロンドの女性姿。
恐ろしく肉感的なその女性は、妖しい薄緑の瞳を向け、クスクスと笑う。
蠱惑的な少し厚めの大きな唇から、ピンク色の舌をペロリと出し、言葉を続ける。
「あら、そちらのお嬢さんを診断するの? 私、超能力者じゃないんですから、眠った者の診断は無理よ…」
ディディェがそう言うと
「ああ、解ってる。今起こすよ」
そう言うと、宗介が気付け薬を嗅がせる。
しかし、歩美に反応がない。
宗介は、歩美を揺り動かして、声を掛ける。
途端に宗介とディディェの反応が切迫しだした。
「宗介。瞼を開いて、瞳孔反射を見せて」
ディディェの言葉に、瞼を開きペンライトの光を当てる。
数秒試し、反対の目も同じように当てる。
「駄目ね。そのお嬢さん、完全に意識を閉ざしているわ…。こっちに連れてきても、結果は一緒でしょうね…。残念ながら、その娘は生きた死者よ」
ディディェは、溜息混じりに診断した。
「くっ、何か方法はないのか?」
宗介が、唇を噛み呟く。
昌聖は、ここに連れてこられた意味が全く理解できずに居たが、話を自分なりに整理していた。
そんな昌聖が、宗介に話しかける。
「あのぉ…宗介さん? 歩美っていつから、意識を閉ざした状態なんだろう?」
昌聖の質問の意味が解らず、
「今は、それ所じゃない…。いつから? 何でそんな事を聞く?」
宗介は、昌聖に逆に質問を返す。
「え? いや、歩美橋の上で僕の言葉に振り返ったし、溺れてからも、僕の質問に頷いたよ?」
昌聖の答えを聞いて、全員が昌聖を見る。
「それ本当! だったら、可能性大よ。大きな声で呼んでみて。意識を覚ますかも!」
モニターの中で、驚き跳ね上がるディディェ。
たわわな胸が上下に激しく揺れる。
「歩美、眼を覚ませ…」
昌聖が語りかけると、瞼がピクリと動く。
「良いわ反応してる…。もっと言い方を変えてみて、思わぬキーワードが有るかも知れない」
ディディェの言葉に昌聖が頷き、言葉を掛け出した。
「起きろ歩美…。眼を覚ましなさい…。目を開けろ…」
昌聖の言葉にピクピクと瞼を動かすが、一向に目覚めまで行かない。
「何か、貴男の言葉に反応するような、切っ掛けが合った筈よ…。良く思い出して…」
ディディェの言葉に、同時に昌聖と宗介が反応し、顔を見合わせる。
コクンと頷く宗介に、頷き返す昌聖。
「歩美直ぐに起きろ! 所有者の言う事が聞けないのか!」
昌聖の言葉に、瞳を開きスクッと立ち上がる歩美。
おーと驚く、宗介とモニターの中のディディェ。
「よし、ソファーに座れ」
昌聖の指示通り動く歩美。
「これで何とか、治療法まで判断できそうね」
ディディェの言葉にフーッと溜息を吐く宗介。
歩美の治療が始まった。
催眠状態に誘導して、歩美の絡まった心の糸を解いて行く。
ディディェの言葉が歩美の心を探る。
30分程経った頃、歩美の絡まった心の糸が解け、悪意有る後催眠が、顔を覗かせる。
「ここからは、慎重に行かなきゃ…。ボンって事に成りかねないわよ」
ディディェの話しに、ゴクリと唾を飲む昌聖。
言葉を掛け、反応を探り、次の言葉を探す。
否定肯定を織り交ぜ、催眠の深部に到達して行く。
さらに、1時間が経過し歩美の催眠を処理する。
「フーッ良いわよ、終わったわ…。これで、この娘の後催眠が発動する事は、無くなった筈よ…。でも、記憶は完全復活してるわ。この娘それに耐えられるかしら?」
ディディェの言葉に、宗介が昌聖の肩を叩き
「こいつが何とかする。だって所有者様なんだから」
実の父親が居る前で、口にするような事ではないが、その父親は昌聖の手を持ち
「お願いします。この子を宜しく、お願いします」
何度も頭を下げるのだった。
「さぁ、眼を覚まさせて上げなさい、その娘の新しい人生が始まるわ…。宗介、今回の報酬は、その坊やじゃ駄目?」
ディディェの言葉に。
「こいつの名前を聞いたら、考え方を変えるよ」
宗介がニヤリと笑いながら昌聖の名前を告げると、[わぉ]と驚き、大げさに目を押さえる。
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