鈴宮ハルキの憂鬱
なぎぃ:作

■ みくる編2

「あ…もう無い…私、飲み物買ってきます。キョン君は何が良いですか?」

やっぱり暑いと冷たいものが砂漠のオアシスみたいですよね。っていうか、朝美奈さ
んが選んだものなら例えヘドロだろうが飲み干しますよ?

「じゃあ…コーラで良いですか?」

有難き幸せです。

私服のスカートを揺らして歩くように走ってくる栗色の髪をした天使はまたも平面で
転びかけ、買ったジュースを守りきったその笑顔を俺に向けた。

可愛いです。朝美奈さん。

「はい、どーぞ」

差し出されたコーラは冷たくて、その先に触れた天使の指先もまた冷たかった。

手にある飲み物を喉に流しながら、朝美奈さんと会話を続ける。

「こっからどーしますか? このまま此処にいても…」

なんだろう。
頭がくらくらとする。

「そうですね…じゃあ…」

無意味な睡魔に襲われた気分。

「…で、…の………から」

朝美奈さんの声が遠い。
次第に、まわりの景色までぼやけてきた。

「………ね。キョンくん…」

何と言ったのだろう?
俺にはその声も聞こえなかったし、その顔をうかがうこともできなかった。


「…ごめんね。キョンくん…」


目が覚めた時、俺は何故か温かい布団の中に居た。

上半身、裸で。

「…目が覚めた?」

その傍ら、優しく微笑む朝美奈さんの美しい体…

「あ、朝美奈さん!!?」

よく発達した胸に細い身体、すらりと伸びる腕から指先…その姿はほんの布一枚で隠
されていた。
濡れた髪にバスタオル一枚という際どいかつ高校男子になんとも貢献しているだろう
その格好は、正直今の俺には素直に喜べなかった。

「どうして…そそそんな…っ」
「キョンくん…」

甘く俺の名前(ニックネームだが)を囁いた栗色の髪の天使は口先に小悪魔的な微笑を
湛えていた。

…何されるんだろう?

「お願いがあるの…」

今のこの状況で彼女は何をお願いしてくるんだろうか。っていうか、何言われても良
いかも。

そもそも、そんな格好で俺を誘惑したのは朝美奈さんのほうじゃないですか。
だから文句は聞きません。

「ふわっ!!!?」

朝美奈さんは可愛い声をもらしたが、次の俺の行為によってそれが続行されることは
なかった。

重なりあった唇から、一筋の糸がひいた。

「キョンくん…っダメ…っ」

強く抱こうとする腕の力を拒み、朝美奈さんは俺の胸元を精一杯の腕力で押しながら
距離を取った。

「…あのね、まだ、ダメなんです。その…」

朝美奈さんが何を考え、何をしたいのか。
それは他人である俺に解るようなことじゃなかったし、むしろそれが当たり前だと思
った。

それにしても。

さっきから気になっていたのだが。

朝美奈さんの後ろの後ろに並ぶアレは何なんだろうか。
チャイナ、メイド、ナースに制服。
いわゆる、コスプレってやつなんだろう。
でも、そんな物が何故ここにある?
仮にここがあの団長率いるSXS団の拠点、文芸部室ならまだ説明もつくし、納得も
できる。
でもここは、明らかにそんな場所じゃない。

綺麗に整備されたベッド。丁寧にシャワー室まで付いている。

ここは…まさか。


「あの…」

思考を遮ったのは、天使の甘い声だった。

「キョンくん…?」

応答の無い俺に何を見い出したのか、二言目には何故か疑問符がついている。

「朝美奈さん」

俺は優しくもなく、鋭さもない声で、天使の名前を呼んでから

「こんな所に連れて来たってことは…」

語尾を濁して質問してみる。
天使は、次にこう応えた。

「私と…SEXして下さい」


それは、とても衝撃的な発言だった。

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