皮膚の壁
一月二十日:作

■ 6

「真美とデートしたぜ。」
「ふーん。」
「あいつ次は落とせるな。」
「え?」
「いや、まんざらでもなかったみたいだ。」
「ふーん…あ、どこ行ったんだ?」
「まぁ、ありきたりな所さ。」
「どこ?」
「映画観てさ、食事して…」
「手くらい握ったか?」
「まぁね。」
「肩は?」
「それはちょっと拒否されたな…ま、次は何とかなるさ。」

どうやら真美は私のことを話していない様だ。
しかしなんて天邪鬼なんだ私は…
その夜、今度は真美から電話が入った。

「あのね、手、握られたんだ…」
「あぁ、今日あいつと会ったよ。なんか喜んでた。よかったな。」
「う〜ん、でもなんか…」
「なんか?」
一瞬、期待するものがあった。
「なんか…嫌なのかなぁ…手がね、湿っぽかった…」
(「そうだろ? だったら断れ。」)
と言いたかったが…
「それはそう言う人もいるけど…それで決めちゃいけないんじゃない?」
「そうなの?」
「そりゃそうだろう。」
…また心にも無いことを言ってしまう…
「そうね…」
真美を励まして落胆してしまった…

それから1ヶ月ほどは2日に1回の割合で真美から電話が入った。内容はすべて望月とのこと。正直毎回心にもないアドバイスをする自分が嫌でならなかった。
この間、真美の口調はますますその顔の様に白猫化して行った。甘える唇が段々湿って行く様な感じだった。

「じゃ、全然進展なしなのか?」
「うん…なんか…嫌なのよね…拒否すんの…でも、誘われると断るの悪いし…でね? …行くんだけどさ…触れられないの…やっぱり嫌なのね…」

細かい語呂は違っても、真美の話の内容はこのセリフの繰り返しの様なものだった。
そして私も

「でも誘われて出て行くっていうのは、やっぱり好きなんじゃないのかい? 少々のことは我慢して思い切ってその先に進まなきゃ…」

と、こちらも細かい語呂の違いはあれ、毎回心にない言葉の羅列だった。

痺れを切らせたのは真美の方だったかも知れない。

「中野さんって…」
「ん?」
「…うん、いい…」
「なんだよ?」
「女心が分かんないんだな…って…」
「え?」
「もういい!」
「おい、なんだよ、こっちこそ分かんないよ。」

と言いつつもほころびる自分の口許…

「うん、とにかくさ、話聞いてやるから。」

やるから? …聞かせて下さいだろう…
真美のあの足の色が股間を撫でているじゃないか?

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