皮膚の壁
一月二十日:作

■ 7

さてここで一旦この話から離れて、この話を読まれている見えない方々に私はお茶でも出そうかと思う。
と言うのも、ここから私は男という性として、真美という女の性のひとつと長く深い闘いを始めなければならないから、一息付けたいのだ。

私と真美は実は20ほどの歳の開きがある。
これを読まれている人はここまででそれぞれ真美という、女性の顔なり身体なり声なりをある程度は作られていると思う。拙い文章ではあるが…

そのイメージのままこの話が進んで行けば、私としても心地良いのだが、同時にそれではまた、この話は何の価値もないただの色恋沙汰の日記で終わってしまうのだ。

真美は真美という固有の皮膚で覆われた生きた肉である…
ある日私はそれを痛感した。
その日も私はこんな感じで立ち止まり、煙草に火をつけ、大きく煙を吐き出した。それは真美が女…いや雌…メス? という肉の塊であることを思い知った、その空間の空気の香りを変えるためでもあった。
そしてそこで私がぼんやりと考えていたのは、勃起して13センチになる私の男根を5センチに戻すか、15センチに膨らますかの選択であった。


…真美の膣の下部に一円玉くらいの白い塊が見えていた。
それは私の男根が何度も行き来する度に、真美の体内から掘り上げて来た真美の悦びであった。
それを人差し指で掬って、親指との間で混ぜる仕草をすれば、ネトネトと糸を引き、そのうちにぱりぱりした結晶になり、いずれは白い粉になってしまうのだろう。

真美の首筋から、柑橘系のいい香りがする。
この香りを嗅ぐと、あぁ、今、真美といるんだと嬉しくなる。
その日もその香りの中にいた。
香りの抱擁の中で真美を愛撫していた。
そして私は興奮し、真美は空間に酔っていた。
M字に開かれた真美の脚は激しく上下し、時々私の腰の辺りに当たっていた。
真美の瞳と口は、同じ様な曖昧さで開いていた。
瞳は時々私を確かめ数回瞬き、口許からは涎の様な「イクイク」という小さな声が垂れていた。


はっきり言って、真美の膣の下部に溜まった悦びの堆積は、異様な香りを発していた。
初めは性交の空間に垂らされたミルクの様な香りだった。多分にそれは私が興奮状態にあり、鼻腔が充血していたためにそう感じたのだろう。
しかし実際の香りは、ミルクが発酵したもの…つまりチーズ…それもかなり濃厚なチーズの香りだった。
明らかに好き嫌いのある香りだ。いや、これはもう匂いだ。
残念ながら私はその匂いを受け入れられなかった。
しかしそれでも救いは、真美の首筋から香るあの柑橘系の香りだった。

…初めて真美と唇を交わした日…


「話、聞いてやるから、会おう。」
「うん…」
「いつにしようか?」
「いつでもいいよ。」
「じゃ、そうだな…いつ休みだい?」
「あさって。」
「明日の晩にしようか? 休み前。」
「中野さんは?」
「…あん…僕には休みはない。」
「いいの? しんどくなぁい?」

(…なぁい? …か…可愛いな…)

「あぁ、しんどくない。」
「…嬉しい…」
「…アハハ…」
「何が可笑しいんですか!?」

(この冷たい声…これがまたいいんだ…)

「いや、違うよ。」
「…嬉しい?」
「え?」
「会うの嬉しい?」
「…あぁ…」
「あ、嬉しくないんだ…」
「そんなことない。」
「本当に?」
「うん。」
「…よかった…」
「じゃ、明日の晩…」
「どこ行けばいい?」
「○○駅。」

そこは私も真美も知っている、会社の最寄り駅だった。

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