皮膚の壁
一月二十日:作

■ 14

しばらくコンビニをふたりでうろうろした。
お菓子のコーナーで立ち止まった。
近頃はお菓子コーナーの何分の一かはお菓子と関係のないキャラクター商品で占められている。
元々はお菓子のおまけだったものが次第にウェイトを大きくして、いつしかお菓子がおまけになってしまい今は、お菓子はまったく入っていない。そんなコーナーを私はじっと見ていた。
元々私はイラストレーターを志望していた。そのために通っていたデザイン学校で、キャラクターを創り出す課題があった。その時間が好きだった。
最初に就いたのもデザイン会社だった。そこでいくつかキャラクターを編み出したことがあった。
そんな時分を思い出した時、ふと隣の真美を描いてみようかという思いが湧き上がって来た。

「中野さん、キャラとかフィギュア好きなの?」
「あぁ、元々絵、描いてたから。」
「え? うそぉ。」
「学校行ってたんだ、絵の。」
「へ〜、見えない。」
「まぁ、今はただの会社員だし、それに歳取ったもんなぁ。」
「ねえねえ、中野さんの絵、観たいな〜。」
「…描こうか? 新しいの。」
「え〜、嬉しい。」
「なんなら丹羽さんのキャラ作ろうか?」
「え、ホント? 嬉しい。」
「じゃ、今度会った時一緒に考えよう。」
「うん、抱っこして描いてね?」
「え? あ…あぁ。」
「絶対ね?」

真美は下から舐める様な視線を送って甘えて来た。

「そうだな、抱っこしてやろう。赤ちゃんみたいにね。」
「うん、赤ちゃん抱っこしてね。」
「あぁ。」
「赤ちゃんだから裸になろうかな?」

真美の胸元がふっと目に入った。息で小さく上下している。そのずっと奥で真美の乳首は何色をしているんだろう? 今度会ったら、きっと見られる…

…真美は今、すっかり剥かれて赤ちゃんになって私の膝の上で丸まっている。私も裸だ。しかしホテルのエアコンは裸でいても充分温かい。だから真美の身体が当たる部分がすっかり汗をかいている。
真美はさっきまで泣いていた。目を潤ませながら意外な話をしていた。

「私は何もかも壊したくなるの。幸せな人見たら。この前も1つ壊した。聞いてくれる? 話したら裸になって寝る。赤ちゃんになって中野さんの身体の上で生まれ変わりたいの。」
「あぁ分かったよ。」
「あのね、私には高校の後輩がいるんだけど、彼女レズなの。」
「レズって、女同士?」
「うん。今大学行ってるんだけど、金持ちの娘でさ。なに不自由なく育って、いい大学行ってさ…悩みなんてあるはずないのに贅沢な悩み言うんだ。」
「何? それは。」
「レズの相手を取られそうだとか。」
「それが贅沢なのって?」
「普通女には男よ。それが女に女なんてさ…普通じゃない。贅沢よ。それに相手はよりによって行ってる大学の先生よ。なんの苦労もしないで手近な所で見つけたんだ、きっと。地位のある女性? それとの付き合いの悩み? それを私になんで話す? ふざけてるよ。」
「しかしそれはある意味かわいそうなんじゃないか?」
「なんで?」
「男を愛せないって、こんなこと言うのも変だけど、女性器が満たされないじゃないか。」
「私はひねくれてる?」
「考え方の問題だろうけど、僕は丹羽さんがかわいそうだ。」
「なんでよ?」
「もっと肩の力抜けるのにって思う。…まぁいいけど、その先は?」
「まぁいい話なんかじゃないわ。それと丹羽さんだなんて…やっぱり距離置いてんじゃん。」
真美はまた右頬を膨らました。
「ごめん、じゃ、聞かせてくれる?その先。」
「…男友達と相手の女性を理由つけて会わせたわ。そしてそこを後輩に見せたの。」
「なんかよく分からない。もう少し詳しく話してよ。」

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