皮膚の壁
一月二十日:作

■ 18

ここに私は一種の後悔とそれを上回る欲情を感じていた。欲情は真美の顔や身体が感じさせている。この身体から今離れるわけには行かないのだ。正直私は真美を征服したい。
そしてこんな時なのに私は真美に聞いた。

「今まで何人と経験したの?」

真美は疑問というものを感じないくらい麻痺しているらしく

「ナナニン…」

と答えた。
その言葉にある意味救われた。

「なぁ、その7人とはまだ繋がりあるの?」
「時々メールはある。」

あの夜以来、逢うたびに嫉妬にさいなまれるようになった。それと比例して、逢う回数も増えて行った。だんだん自分の中のプライドや好みが崩れてゆくのを感じていた。
真美という女は、どうも男をコレクションしている様なところがあるみたいだと感じ始めていた。
それはあんなに嫌がっていた望月の誘いも相変わらず受けていたからだ。
私は私で、嫉妬しつつも望月を煽っていた。その裏でこうしてしっかり真美とは逢っている。

ホテルへ行く時間がない時はこうして車で闇の中を彷徨う。
一度山の中でガソリンが無くなりかけた時
「いっそ帰れなければいいのにな。」
と真美は呟いた。
そんな時、満たされた気持になる反面、ふと望月や過去の男のことが浮かんで、真美の存在が頼りないものに思えた。
そんな時は強引に唇を交わした。
強引に真美を引き寄せ、顔を近付けると真美は必ず
「ん?」
と言って私の目を見つめる。そして一気に身体の力を抜く。
それを支える様に真美の身体を引き寄せて唇を合わすと、待っていたかの様に真美の舌が私の口の中を荒らし回る。唾が飛ぶほどに。
そして私はそれに誘発されて真美のスカートの中に指を入れてしまう。
ストッキングとパンティーで真ん丸い球体にしか感じられないその硬さを、ほぐそうとする様に指を押し込む。
ふと一本の溝を見つけてそこに指を沈めようとすると、真美の篭ったような
「うあーん…」
と言う小さな声が何度も上がる。

「でも…」
「でも?」

そう、そこで必ず真美は「でも」と言う。

「でもなんだい?」
「私ね、器具を使わないとダメになったの…指じゃダメなのよ…」
「え?」
「前の前の彼が教えたの。」
「バイブとかいうやつ?」

私はあまり器具には詳しくない。だからそれくらいしか想像がつかない。

「それもやったけど、うーん、もっとSMっぽかった。」
「SM?」
「あの彼、かなりのSだったみたい。言葉や器具で責められた。あんまり好きじゃなかったけど、彼が喜ぶからしたい様にさせてた。初めは痛かったりしたけど…」
「どんな風に?」
「あの最中でおならしろとかオナニーしろとか、変なことばかり要求するの。」
「器具は?」
「携帯。」
「え、じゃ、バイブにするの?」
「違う。普通に話すだけ。」
「え? どういうこと?」
「下半身を責めながら上半身は普通の会話をさせるの。それも真面目によ。友達と。」
「え?」

真美の真面目な話し方?
それはきっと初めて会った頃のあの「ですます口調」だろうか?
だとしたら確かにあの声は冷たい。
冷たいだけに私もこの口調とのギャップにのめり込んでいる。だから昼間事務所で聞く真美の社用電話でのあの冷たい声の響きがまた、征服心を満たしたりするのだ。

「はい、○○株式会社でございます。」
「はい、少々お待ちください。」
「いいえ、存じ上げません。」
「ただいま不在にしております。」

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