ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 過ぎた好奇心4

 ボクたちの考えた作戦はこうだ。

 ボクが高校生に捕まる。高校生は、ボクにナイフを突きつけ、ボクを助けたければ服を脱ぐように姉の理沙に迫る。高校生役は、背の高い亮太がやる。でも、亮太は気が小さいし、声も子供っぽい。声は、実が引き受ける。電話で、いつもおやじと間違えられている実の声なら高校生に思えるだろう。

 サングラスと服は、一樹が用意する。亮太の持っている服は、いかにも子供っぽい。図体はでかくても、所詮は子供だ。一樹のお父さんはトラックの運転手だから、サングラスや一見ヤンキーに見える服を沢山持っている。サングラスで目を隠し、一樹のお父さんの派手な服を着ればガラの悪い高校生くらいには見えるだろう。

 筋書きを考えるのは武彦の役目だ。ませていて悪賢いことを考えるのは、武彦ならピッタリだ。クラス会議でも、女子の正論に反対できるのは、武彦ぐらいだ。ボクたち男子に不利な提案が女子から出るたびに、武彦一人が反論する。ボクたちは、『そうだ! そうだ!』と武彦の援護射撃をするだけだ。いちゃもん、屁理屈と言われてもしょうがない論理で女子に対抗する。それができるのが武彦なんだ。

 ボクたちは、ボクと亮太以外が隠れることができ、そして覗き見できる場所を探さなければならなかった。誰にも見つからないことも重要だ。色々考えた末、校庭の隅にあるプレハブで出来た用具倉庫に決めた。昔はそこに体育館があってその横に用具倉庫があった。体育館は校庭の反対側に新築されたけど、用具倉庫だけはそこに残された。

 今は、跳び箱の授業も高飛びの授業も体育館でするので、プレハブの用具倉庫は使われていない。運動会の時の看板や玉転がしの大玉、障害物競走の障害物などが仕舞ってある。鍵が掛ったままになっているが、その南京錠が壊れていることもボクらは知っていた。錆付いた南京錠は、強く引っ張ればすぐ外れる。運動会でしか使わない用具がしまってあり、隠れる場所も沢山ある。男子対女子のかくれんぼをする時の、絶好の隠れ場所なんだ。校舎の陰にもなっていて、人目にもつかない。絶好の場所だ。

 土曜日の朝、ボクは実るの家に向かった。家を出ると、外はやけに明るかった。いつもと同じ風景のはずなのに妙に眩しい。罪悪感がそう感じさせるのだろうか。ボクは顔を伏せ、人目につかないように実の家に急いだ。

 実るの家に着くと、集合時間前だというのに武彦と亮太はすでに来ていた。気持ちが落ち着かなく、20分も前に着いたそうだ。いつもは遅刻の常習犯のボクでさえ、10分前に着いてしまった。しばらくすると、一樹が大きな紙袋を持ってやってきた。その中には、変装用の衣装が入っていた。

「大丈夫だったか? 勝手に持ち出しておやじさんに怒られないか?」
「大丈夫。父ちゃん、長距離で明日まで帰ってこないんだ」
 ボクたちは、一樹が持ってきた衣装を袋から取り出した。
「すげー服だな。おまえの父ちゃん、いつもこんな派手な服着てるのか?」
「休みの時は、大体こんな感じだな。悪趣味だろ。ヘヘへ……」
 ボクたちは、取り出した服をしめじめと眺めた。
「おまえのおやじ、元ヤンキ−?」
「趣味悪いなー。ホントかよ」
 ボクたちは、一樹の持ってきた服を取り出し言いたい放題だ。
「おれが言うのはいいけど、おまえたちに言われたくないな」
 一樹は、少しむくれっ面で言った。

「こんなことしてる暇ないぞ! 亮太、早く着替えろよ」
 武彦は、こんな時でも冷静だ。ボクたちが、手に取り品評している服を取り上げ亮太に手渡した。

「ハハハ……、似合ってるぞ、亮太。ホント、恐えな」
「似合ってなんかいねえよ」
 亮太は否定するが、着替え終わった亮太を見て、ボクらは思わず笑ってしまった。いつもは子供っぽい亮太の変身が可笑しかった。しかも、サングラスを掛けると、かなり危ない人間に見える。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊