ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 同級生のブラジャー1

 ボクが教室に入ると、クラスのみんなの態度がいつもと違っていた。いつもなら、男子のいたずらに怒った美紀が男子を追い掛け回している。そんな騒がしい教室なんだ。それが今日は、少しおかしい。男子は、教室の後ろに溜まってヒソヒソ話をしている。女子は、自分の席の椅子に大人しく座った美紀を取り囲み話をしている。不思議に思ったボクは、武彦に声を掛けた。

「どうしたんだ? 今日はみんな少し変だぞ」
「見てみろよ」
 武彦が顎を美紀の方にしゃくって見せる。ボクは視線を美紀の後姿に投げかけた。
「美紀がどうかしたのか?」
 美紀の異変に気付かないボクに、武彦が小声で言った。
「鈍いな、健は……。美紀の背中、よく見てみろよ、ほらっ!」
「背中? 背中に何かあるの?」
 ボクは、美紀の背中を注意深く観察した。
「あっ!!」
 思わずボクは、大きな声を出してしまった。ブラウスを透かして、美紀の背中を横切る少し太い線、肩からそのバンドにつながる二本の細い線を見つけたからだ。女子たちは、ボクの声にチラッと冷たい視線を返したが、すぐに美紀と話し始めた。

「なっ! あれ、ブラジャーの線だよな」
「うっ、うん……」
 ボクは、返事を飲み込んだ。始めて見るクラスメートのブラジャー姿だった。ブラウスの上からの背中越しだが、ボクにはブラウスの存在は飛び去っていた。頭の中には、美紀の素肌に走るブラジャーの線がくっきりと焼き付けられていた。

 授業が始まっても、ぼく気持ちは落ち着かない。なぜなら、美紀の席はボクのまん前なのだ。視線は、自然と美紀の背中を見つめてしまう。見てはいけないと思っても、気が付くと背中を走る線に向けられている。黒板を見なくちゃ! 今は授業中だぞ! そう自分に言い聞かせる。いつもは、授業なんか聞いてないのに……。窓の外を見てボーとしているだけなのに、今日に限って、授業をまじめに受けなくちゃって思ってしまった。

 突然、美紀が振り返った。ボクは心臓が止まりそうになるほど驚いた。背中を見つめてたのがばれたのかと思った。女の子の感は鋭いから、ボクがブラジャーの線を見ていたのを気付かれたのかと心配したが違っていた。
「健君、消しゴム貸して」
 美紀は、ニッコリと微笑みながら手を差し出した。健君だと? いつもは呼び捨てなのに……。どうしてしまったんだ? 美紀がおかしい。いつもの美紀と違う。笑顔まで浮かべている。

 変だ! 絶対に変だ。いつもなら、ボクの机の上の消しゴムを手にとって、それから『消しゴム借りるよ』って言う。ボクの返事など待たずに消しゴムを持っていく。ボクは、美紀の背中に向かって、『もう、借りてるだろ。貸すと言ってから借りろよな!』って、美紀には聞こえないように突っ込む。それがいつものことなんだ。なのに今日は、手を差し出したまま、ボクの返事を待っている。

「あっ、ああ、いいよ」
 ボクは消しゴムを手にとり、美紀の掌に載せてた。美紀が、にこっと微笑み返す。不気味だ。おかしい。絶対におかしい。
「ありがと」
 そう言って美紀は自分のノートを消しだした。今日の美紀は、絶対に変だ。『あとがとう』と感謝の言葉まで口にした。いつもは生意気な美紀が……。

 ボクの前に座ってるのは、本当に美紀なんだろうか? もしかしたら、美紀の仮面を被った宇宙人か何かじゃないだろうか? そうだ! きっとそうだ! 昨日の夜、流れ星をボクは見た。実はあれはUFOで、あのUFOに乗って来た宇宙人が美紀に載り移ってるんだ。そうに違いない。ボクの目の前に座っているのは、美紀の身体を借りた異星人に違いない。

「健君! 健君! どうしたの? 何回呼ばせるの!」
「えっ? えっ? はっ、はい!」
 誰かが、ボクを呼んでいる。ボクは、キョロキョロとあたりを見渡した。あっ! 先生がボクを呼んでいた。全然気付かなかった。
「次、読んで」
 ボクは慌ててしまった。ボクは、教科書を慌ててパラパラと捲った。しまった! どこから読めば良いのかさえ判らない。
「早く立って。どうしたの?」
 先生が、ボクを急かす。そんなボクに、隣の実が言った。
「健くん。もう立ってます」
 気が付くと、ボクのズボンの前はテントを張っていた。それに気付いた数人が、大きな声で笑った。ボクは、顔を真っ赤にした。遠くの席のクラスメートは、不思議そうにボクの顔を見ている。ますます恥ずかしくなったボクは、耳が熱くなるのを感じた。

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