ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 同級生のブラジャー3

 体育の授業が始まった。熱血教師の富樫の授業だ。話の判る先生だが、とにかく熱い。その熱さは、使い方によってはボクらの味方になったり敵にもなったりする。

「みんな、集まれーー! せいれーーつっ!」
 富樫の声が体育館に響く。みんなが富樫の前に、背の順に並んでいく。並び終わったところで富樫が話し始めた。
「いいかっ、今日は跳び箱だ」
 富樫は腰に片手を当て、もう一方の手で体育館の中央に並べられた跳び箱を指し大きな声で言った。大げさだ。昼休みの前から、体育館には跳び箱が並んでいた。見れば判る。判りきったことを大声で言われてもしらけてしまう。

 その時、武彦が手を上げた。もう一方の手は股間を抑えもじもじとしている。
「せっ、先生! トイレに行っても良いですか」
「どうした? 授業は始まったばっかりだぞ」
「休み時間、遊ぶのに夢中でおしっこに行くのを忘れてました。もっ、もう、洩れそうです」
 武彦は、太股を擦り合わせ脚で床をどんどんと鳴らす。たいした演技だ。打ち合わせ通りだ。
「仕方ないな。元気に遊ぶのは良い事だ。でも、トイレぐらいちゃんと行っておけ。行ってよし」
「はあーーい」
 武彦が、トイレに向かって走り出した。振り向く時、武彦はぺろっとボクらに舌を出して見せた。武彦が体育館を出て行くのを合図に、ボクらも作戦の実行に移った。
「せんせい! ぼっ、ボクも……」
「俺も行って良いですか? トイレ……」
 四本の手が揚がった。ボクに亮太、実、一樹だ。富樫の顔が一瞬引き攣った。『やばい』と思ったが、武彦がトイレに行くことを許した手前、差別する訳にはいかない。
「しっ、しかたない。行ってこい。次からは、授業の前にちゃんと行っておくんだぞ」
富樫は、そうボクらに言った。ボクは、
「すみません」
と、ペコリと頭を下げた。多分、富樫には聞こえなかっただろう。それくらい小さな声だった。これから悪いことをする罪悪感が声を出すことを拒んでいるようだ。富樫は、跳び箱の注意事項をみんなに話し始めた。

 ボクらは急いで武彦の後を追った。入り口に掛っているカーテンを抜けロビーに出ると、そこに武彦が待っていた。ロビーを挟んで右側に女子トイレと女子更衣室、左側に男子トイレと男子更衣室がある。
「さあ、行くぞ」
 武彦が先導してボクらはドアを開けた。もちろん、男子トイレのドアではない。女子更衣室のドアだ。

 男子更衣室と同じ造りのはずなのに、そこは異次元の空間のように静まり返っている。掃除の時など、しょっちゅう入っている場所なのに、初めて訪れた町のような不安が纏わりついてくる。
「うーーん、いい匂い」
 一樹も、いつもよりテンションが高い。大きく深呼吸しながら言う。いつもに増しておやじっぽい。ボクは、そう感じながらも鼻をクンクンと鳴らした。確かに、男子更衣室とは違う香がするような気がする。これが女の匂いと言うものなのか・・・。
「そんなことより美紀の着替えを探せよ!」
「おお!」
 武彦の声に一樹と亮太が、拳を振り上げ意気込みを示すように雄叫びを上げる。
「しぃーーー、大きな声出すなよ。ばれちゃうだろ」
 ボクと武彦は、同時に言った。
「ごめん、ごめん……」
 一樹と亮太は、笑いながら首を竦めて見せた。

 ボクたちは、美紀の着替えを探し始めた。ロッカーに仕舞われた服の胸のところの名札を一つづつ確認していく。ロッカーには鍵も付いているのだが、鍵を掛けるヤツなんて一人もいない。キーだって、紛失することの無い様、体育館には置いてない。職員室まで借りに行かなければいけない。

「見てみろよ。このでっかいスカート。小百合のだぜ」
 一樹が小百合のスカートを見つけ、広げて見せた。小百合は、我校一の巨漢の持ち主だ。亮太とどっこいどっこいの巨体だ。
「ほんと、でかいな。亮太でも履けるんじゃないか?」
「ぜったい履けるよ。あんなでっかい身体して小百合はねえよな」
 一樹は、そのスカートを亮太の腰に当て笑ってる。
「あっ、これ彩ちゃんの服だ。いい匂いがする。かわいい娘は匂いまでいいんだ」
 実は襟にフリルと花柄の刺繍の入った小さくて可愛いブラウスを見つけ、それを顔に押し付け匂いを嗅いでいる。竹下彩子の小さな身体に似合ったブラウスだ。ボクも彩ちゃんのブラウスは気になったが、今日は美紀の着替えを探す方が先決だ。彩ちゃんの着替えがあったってことは、その近くに美紀の着替えもあるはずだ。ボクと武彦で、彩ちゃんのブラウスが見つかった近くを探し始めた。

 ボクらが美紀の服を探している時、体育館の方ではボクらにとって危険な出来事が起こっていた。そんなことボクらは知る由が無かった。

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