ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 同級生のブラジャー5

「お前ら、そこに立ってろ。一時間、立ったまま授業を見学だ」
 富樫は、ボクらを壁際に一列に並ばせた。女子たちも、ボクらが更衣室に忍び込んだことに相当腹を立てている。
「立たせてるだけじゃ、甘すぎると思います」
 一人の少女が言った。真由美だ。いつもは大人しいのに、学級会議になると張り切る、そんなヤツだ。行動力は無いくせに、意見だけははっきりと言い張る。
「そっ、そうか?」
 富樫は、自分の決めた罰が軽すぎたかと戸惑っている。やばい! 女子の機嫌を直そうと、富樫が真由美の言うことを聞き入れる恐れがある。
「女子の服に興味があるみたいだから、スカート履かせて女の子の格好させて立たせるのがいいと思います」
「それがいい。それ、おもしろい」
 女子たちは、おもしろがって囃し立てる。ますます、やばい。富樫は、物分りの良い先生を気取って、女子の悪乗りに乗ってしまいかねない。
「でも、女の子の服って無いぞ」
「私、貸します。私の服なら着せてもいいですよ」
「わたしのもいい! 貸すよ」
 女子全員がその意見に賛成した。ボクらには、意見を言う権利は与えられない。富樫も、結局は面白がって女子の意見を採用してしまった。

 ボク達は5人とも、女子の手により体操着の上から女の子の服とスカートを着せられた。大柄の亮太は、やっぱり小百合の服だ。熊のプリントがされたピンクのTシャツにスカート。他の女の子の服は、亮太にはどれも小さすぎた。実は厚かましくも彩ちゃんの服がいいと言ったが、小柄の彩子の服は誰にも合わなかった。実は、一番ぶりっ子のフリフリのブラウスを着せられ、頭にリボンまで付けられている。ボクは結局、美紀の服を着せられてしまった。去年まではボクの方が大きかったのに、今年になって美紀に追いつかれてしまった。いまでは、ほとんど同じくらいの体格なんだ。

 やばい。今ボクが着ているこのブラウスには、美紀のブラジャーと素肌が直接触れていたんだ。このスカートの中に、美紀のパンツが隠れていたんだ。そんな妄想が湧き上がってくる。美紀のことなんてなんとも思ってない、そう言い聞かせるのだが、ボクの下半身は勝手に想像を膨らませている。本当にやばい。スカートの下に履いたままの短パンを、妄想が押し上げている。スカートが隠してくれていなければ、ボクは今ごろ、クラスの笑い者になっているだろう。

 女の子の服を着せられ立たされたボクらを尻目に、授業は再開された。二列に並べられた跳び箱を、一人一人順番に跳んで行く。ボクらは、女子の跳び箱の列の壁際に立たされていた。これも、女子の意見が取り入れられていた。

 跳び箱を跳び終えた女子が、立たされているボクらの前を通り過ぎて、スタート位置に戻っていく。
「健君、かわいい」
「実君、似合ってるよ! リボン……」
 通り過ぎるたび、何か一言いっていく。
「うるせえ! 似合ってなんかねえよ」
 何か言い返すたんびに、富樫の睨みがこちらに向けられる。

 女子二人がボクらの前を通り過ぎる時、立ち止まりにやりと微笑んだ。笑ったかと思うと、いきなりボクらのスカートを捲った。
「そーれっ!」
 そう言いながらスカートを捲った。やばい、短パンがテントを張っているのを見つかってしまう。
「やっ、やめろよ!!」
 ボクは、必死でスカートを押さえた。スカートの中には、見られてはいけない秘密があるんだ。絶対にみられてはいけない秘密が……。
「私たちがいつもされてることよ。私たちの気持ちが判った?」
 ボクは、このとき初めてスカートを捲られる女の子の気持ちが判ったような気がした。でも、悔しいので言い返した。
「てめえらみたいなブス、捲ってねえだろ!」
「先生! 健君が汚い言葉使いました」
 女子はこれだからいやだ。なんでも直ぐに、先生に言いつける。
「大人しく立ってろ! 反省してるのか?」
 富樫がこちらを睨みつける。女子は、完全に富樫を味方につけている。味方のはずの男子も、ボクらの女装が面白いのか、ただ笑っているだけだ。他人の不幸は面白いらしい。

 跳び箱に目をやると、ちょうど美紀が跳ぶところだった。跳び箱に手をついた美紀の肢体がふわっと浮き上がり、綺麗な姿勢で跳び越えていく。その背中に、ブラジャーの線がはっきりと見えた。やっぱり体育の時でも外さないんだ。美紀も、昼食が終わったら体操着に着替えていたはずだから、昼休みに確認できたはずなのに……。そうしておけばこんな目に合わずにすんだのに……。ボクらの失敗は、作戦会議に夢中でそのことに気付かないでいたことだ。

 その後も女子たちは、ボクらの前を通り過ぎるたび『キャッ、キャッ』と言いながらボクたちのスカートを捲っていく。でも、ボクらのただ遣られているだけではない。実が反撃に出た。
「そーれ。どうだ!」
 実がふざけて、女子が捲るより早く自分でスカートを捲ってみせる。
「やだぁ。へんたーーい、実君の変態!」
 またしても、女子の悲鳴を聞いて富樫がボクらを睨みつける。
「こらあ! そこの五人、おとなしく立っていろ! 今度騒ぐと、次は職員室に立たせるぞ!」
 富樫の怒声が飛ぶ。その声に、跳び箱の順番待ちをしていた美紀が、ボクらの方を振り返ってクスッと微笑んだ。その頃には平常心を取り戻していた下半身が、美紀の微笑を見た途端、また、妄想を始めた。

 ボクは体育の授業中、ずっとスカートを押さえておかなければいけなかった。

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