ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 姉ちゃんの恋愛実習1

 朝から、姉ちゃんがソワソワしている。服を何度も着替え直して、ボクにおかしくないか聞いたりする。
「健! どお? おかしくない?」
 土曜の朝から、何回この言葉を聞いたんだろう。つい最近まで口も聞いてくれなかったのに、今日は機嫌がいいのだろうか。口を聞いてくれるだけでもありがたいのだが……。姉ちゃんが僕を無視してたのは、全てボクが悪いんのだから……。(過ぎた好奇心参照)
「いいと思うよ……」
「そうかな? やっぱりあっちにしよう」
 姉ちゃんは、ボクの意見を聞いてもそんなの何の参考にもしない。また、自分の部屋に着替えに入った。姉ちゃん、今日はデートのようだ。薄っすらとメイクなんかもしている。ボクのいい加減な答えにも、怒ったりしない。機嫌がいいのは良いことだが、朝からこの調子だとボクも迷惑だ。

 姉ちゃんが最終的に選んだ服は、ボクに見せることなく自分で決めた。ピンクのVネックのキャップスリーブTシャツ、それに柔らかい生地でできたふわふわとしたミニスカートだ。膝上20cmはあるな、あれは……。それなら最初から、僕になんか聞かなければいいのに……。でも、あんなに太股見せちゃて、姉ちゃんの彼氏、我慢できるかな? 弟のボクが見ても綺麗な足だし、胸だってTシャツを押し上げちゃってる。Vネックじゃあ、胸元からブラジャーが見えちゃうぞ。キャップスリーブだから腋の下だって見られちゃう。彼氏が悶々としちゃうんじゃないか? ボクは、そんな心配をしてしまった。

 姉ちゃんは、いそいそと出かけていった。リップなんかも塗っている。唇がツヤツヤと光っていた。キスぐらいまでなら、許す気なんだろうか? 家の中ではいつも強気でボクをいじめてるのに、外に出ると途端にしおらしい女の子を演じる。姉ちゃんは、外での自分が本当の自分だと言い張っている。彼氏には、まだ、キスすら許してないらしい。セックスなんてもっての外らしい。結婚するまでは、身体は許さないそうだ。自分の部屋では、オナニーだってしてるくせに……。

 ボクは二階の自分の部屋から、出かける姉ちゃんを見ていた。姉ちゃんの足取りが軽い。ウキウキとしている。あっ! 姉ちゃんが向かいのおばちゃんに捕まった。

「あら、理沙ちゃん、お出かけ?」
「はっ、はい」
 姉ちゃんは、『しまった!』という表情をしている。
「まあ、デートかしら? そんなにめかし込んで……」
「そ、そんなことないです」
 否定はするが、姉ちゃんは頬が真っ赤になっている。自分からデートだって認めてるみたいなもんだ。

 向かいのおばちゃんは話し好きで、一度話し始めると長い。姉ちゃんが困った顔してる。そんな姉ちゃんに、気付いてか知らずかおばちゃんは話し続けてる。姉ちゃんは、時計を気にしながら、そわそわしていた。服を選ぶのに、あんなに時間を掛けるもんだから遅刻しそうになるんだ。いい気味だ。いつもボクをいじめてる罰だ。姉ちゃんが困ってるのは面白い。

 おばちゃんは、ニタニタした顔で二階の窓から見下ろしてるボクに気が付いた。
「健君、こんなに綺麗で優しいお姉ちゃんがいて幸せね」
 優しい? そんなことはない! おばちゃんは、家の中での姉ちゃんを知らないだけだ。姉ちゃんは外面(そとづら)がいいだけなんだ。確かに、綺麗なことは認めるけど……。おばちゃんがボクの方に話し掛けたことをいい事に、
「それじゃあ、失礼します」
と言って、姉ちゃんはその場を逃げるように後にした。

 小走りに駅の方に駆けていった。ひらひらとスカートが靡いている。そんなに走っちゃ、パンツが見えちゃうよ。そんな心配をよそに、姉ちゃんは駅へ急ぐ。これは遅刻だな。

おばちゃんは、姉ちゃんのうしろ姿に目をやり、そしてボクに、また話し掛けた。
「それにしても、最近の娘は足が長いわね。健ちゃんも自慢でしょ。綺麗でスタイルのいいお姉ちゃんで……」
「う、うん……」
 ボクは、曖昧に返事した。

 確かに、姉ちゃんの人気は、僕の仲間にも高い。亮太や一樹は、用具倉庫での一件依頼、姉ちゃんの熱狂的なファンになってしまっている。スタイルだって、テレビに出てるアイドルより良いし、小顔に黒目がちの大きな瞳、引き締まった顎、ショートボブの髪形も似合っている。歩くたびに、天使の環ができる黒髪が軽やかに揺れる。何よりボクの仲間は、姉ちゃんの大きな胸も引き締まったお尻も知っている。弟のボクでさえ、姉ちゃんを見てドキドキすることがある。

 姉ちゃんの姿が見えなくなるのを確認して、ボクも仲間と遊ぶ為に出かけることにした。

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