ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 姉ちゃんの恋愛実習2

 ボクが家に帰っても、姉ちゃんは帰ってなかった。まだ帰ってきてないってことは……、どこまで行ったんだろう。どこまでって言っても、場所のことじゃない。恋愛のステップのことだ。かなりお洒落をして出かけたから、姉ちゃんも、かなり彼氏に惚れているみたいだ。Aまでは行ったかな? ひょっとしてB? Cまで行ってたりして……。ボクは、一人想像して、にやけてしまった。

「健! 夕刊取ってきて」
 夕食を待っていると、かあちゃんの声がする。
「はあーーい」
 ボクは、夕刊を取りに玄関のドアを開けようとした。

「うわっ!!」
 開けようとしたドアが、突然開いた。自分がしようと思ったことが、その前に起こると人間ってどうして驚いてしまうんだろう。ビックリしてボクは、玄関に尻餅を着いてしまった。目の前には、姉ちゃんが立っていた。

「なんだ。姉ちゃんか、驚かすなよな」
「うるさい!!」
 姉ちゃんは、ボクに怒鳴った。今朝と雰囲気が、全然違う。朝は、あんなに機嫌が良かったのに……。それに、姉ちゃんの目が赤い。頬も濡れている。あれは、涙の跡? 彼氏と何かあったんだろうか? 姉ちゃんは怒鳴っただけで後は何も言わず、さっさと自分の部屋に向かった。ボクは、呆然と姉ちゃんの後姿を見送った。

 ドタドタと、荒っぽく階段を鳴らしながら二階に上がっていく。不機嫌に階段を上がってる姉ちゃんのスカートが、翻った。
 あっ!! ピンクのパンツ履いてる。
 こんな時でもボクは、階段を上る女の子がいたら見上げることを忘れない。男だなって思う瞬間だ。

 ボクは、かあちゃんに夕刊を渡すと、二階の自分の部屋に急いだ。音を立てないようにそっと自分の部屋に入り、壁に耳を当て姉ちゃんの部屋を窺う。もしかして、姉ちゃん、無理やり犯られてたりして……。そんな悪い妄想が広がる。
《……ううっ、ううう……。ううう……。優作のばか……》
 やっぱり姉ちゃん、泣いている。デートで何かあったんだ。犯されちゃたんだ! きっと……。想像は、すぐ悪い方に向かってしまう。でも、姉ちゃんの服は、出かけるときと何も変わってない。服も髪型も、乱れた様子はなかった。僕の頭の中は、???……と?マークが飛び交っている。

 ボクはコナンになった気分で推理を巡らした。
 彼氏に振られちゃった? 状況を考えるとこれが一番怪しい。服も髪型も乱れはない。姉ちゃんは泣いている。やっぱりこの可能性が、一番高いように思えた。出かけるときは、あんなにウキウキしていた。ミニスカートにピンクのお洒落なTシャツ、目一杯めかし込んでいた。かなり彼氏に、舞い上がっていたみたいだ。そんな彼氏に振られたら落ち込むだろうな……。

 夕食になっても、姉ちゃんは部屋から出てこなかった。食欲のない姉ちゃんを見るのは久しぶりだ。去年の冬、風邪を引いたとき以来だ。姉ちゃん、やっぱり失恋しちゃったのかな? 弟のボクが見ても、姉ちゃんはかなりいけている。結構かわいいしスタイルだって抜群だ。華奢な背中に長い脚、それに胸だって大きいし、お尻だって引き締まってる。ボクが弟じゃなかったら、ボクをいじめたりしなかったら、惚れてしまうだろう。そんな姉ちゃんを振るなんて……、彼氏との間に何かあったんだろう?
「どうしちゃったのかね? 理沙は……。ご飯も要らないなんて……」
 母ちゃんも心配している。みんなの心配を知ってか知らずか、結局、姉ちゃんはご飯を食べなかった。

「健、そろそろ宿題でもしたら? あるんでしょ? 宿題」
 床に寝転びテレビを見てたら、母ちゃんがこちらを見て睨んでいる。宿題なんて、明日の朝、授業の始まる前に武彦に見せてもらったらいいんだけど、宿題をする姿勢だけでも見せておかないと母ちゃんの機嫌が悪くなる。
「はあーーい」
 低い声で返事をし、ボクは自分の部屋に向かった。

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