ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 姉ちゃんの恋愛実習4

 朝はあんなに機嫌が良かったと思えば、帰ってくるなり泣いている。夜はとても機嫌が悪いし、突然ボクにズボンを脱げって言ったりする。今日は、女心の不思議に翻弄される一日だ。

 ボクは、宿題する気にもなれないので、とりあえず風呂に入った。頭からお湯をかぶり、湯面から目より上だけを出して湯船の中に身体を沈めていく。こうしていると、気持ちが落ち着く。まるで、池の水面に目だけを出して浮かんでいる蛙のようだ。やっぱり、生命は水の中から生まれたんだ。そんなことを考えてしまう。

 烏の行水の風呂が終わり、パジャマに着替え部屋に入ろうとした時、姉ちゃんの部屋のドアが少し開いているのに気付いた。隙間から姉ちゃんがこちらを見ている。ボクは、それには気付いてないフリをして部屋に入った。

 しばらくすると、ボクの部屋のドアがそーっと開いた。姉ちゃんは、半分開いたドアの隙間から覗き込んだ。
「健? まだ起きてるよね。入ってもいい?」
 部屋の真中で胡座をかきマンガに視線を落としているボクに、話し掛けてきた。ボクは、何も気にしていないフリを決め込む。
「ああ、いいよ」
 マンガに視線を落としたまま言った。マンガなんて読んでない。ただ、見てるフリをしてただけだ。姉ちゃんが来るような気がしていたし、何か起こる予感がしていた。
「どうしたんだよ? 俺の部屋に来るなんて……。いつも、汚いから入りたくないって言ってたじゃないか」
「うっ、ううん……。たまにはいいかなって思って……」
 姉ちゃんは、片付けできていないボクの部屋を見渡しながらボクの前に座った。そういえば、この部屋、掃除したのはいつだったろう? 忘れるくらい前だ。

 姉ちゃんは、落ち着かない様子で部屋の中を見渡している。姉ちゃんの服装は、朝デートに出かけた時のままだ。ミニスカートから、肉付きのいい太股が飛び出している。太股とスカートから出来る三角形の隙間から、パンツが見えそうだ。

 ボクは、気付かれないように視線を姉ちゃんの太股に這わせながら、ぶっきらぼうに声を掛けた。
「何か言いたいことがあるんだろ? だからボクの部屋、来たんだろ?」
「べっ、別に? ただなんとなく……」
 そんなはずはない。姉ちゃんの目が泳いでる。

 姉ちゃんは自分を落ち着かせようと、一度瞼を閉じ、それからゆっくりとボクの目を見て口を開いた。
「風呂でキレイに洗った?」
 一体何を言い出すんだ、姉ちゃんは……。母ちゃんみたいなことを言う。
「洗ったよ。それがどうしたの?」
「全部? 全部キレイに洗った? 身体中……」
「洗ったよ! どうしたんだよ。そんなこと聞いて……」
「あんた、からすの行水でしょ?」
 僕はもう子供じゃないんだぞ。確かにからすの行水だけど……。
「だから……、あそこもキレイに洗った?」
 ボクはピンときた。でも、気付かないフリをして、意地悪く聞きなおした。
「あそこっとどこだよ。どこのこと言ってんだよ」
「べっ、別に……。キレイに洗ったんならいい……」
 姉ちゃんは、答えに困ったように頬を染め俯く。結構ウブなんだ、姉ちゃん……。もう少し様子を見ながら焦らしてやろう、フフフ……。

 姉ちゃんは、意を決したように真面目な顔をしてボクに話し掛けた。
「あのさ、見せて……」
「なにを?」
 相変らずボクは、何のこと?って顔で姉ちゃんを焦らした。
「あれっ、あれよ……。ほらっ……」
「あれじゃ判らないよ。はっきり言ってよ」
「う、もう鈍感! おチン○ンよっ!」
 姉ちゃんは、焦らされることに耐え切れず、怒ったように顔を真っ赤にして『おチン○ン』という言葉を口にした。
「最初からはっきり言えばいいのに……。でもどうして? 訳もなく見せれないよ」
 ボクは、姉ちゃんの秘密を知りたくなった。デートで何があったんだろう? 見せる代わりに、その秘密を聞き出すことにした。

「あのネ……」
 姉ちゃんは、見たい訳をゆっくり話し出した。

 姉ちゃんと彼氏のデートは、最初はいい感じだったらしい。何回目のデートだろう? かなり回数も重ねてると思う。今日は、彼氏が焦ってる感じだったそうだ。今日、姉ちゃんの露出が多かったせいかな?

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