ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 同じ屋根の下の少女4

 喋りたい……。喋っちゃいけないと思うけれど、喋りたい。
「武彦、誰にも言うなよ。絶対秘密だぞ」
 休憩時間、僕は秘密と言う誘惑に負けヒソヒソと内緒話を始めた。誰かに喋るから、秘密は秘密なのだ。
「ええ!! お前、美紀の裸見たのかよ」
「しーーーっ!! 声がでかい」
 大きな声で驚きを表す武彦を僕は制した。しかし、遅かった。武彦の大声に驚き、クラス中の視線がボクらに向けられている。
「なに? 美紀の裸見た?」
 実、亮太、一樹が聞きつけて僕らの周りに集まってきた。あちゃーーー、まずい! ぼくは、そーっと美紀の表情を窺う。向うも鋭い視線でこちらを睨んでいる。無言の恐喝だ。

「毛っ、生えてた?」
 毛は、ボクらの最近の最も興味のある話題だ。一樹は、『俺、生えた』と自慢する。もう大人だと言いたいんだろう。でも、5mmくらいだとみんな知っている。亮太は、恥ずかしがって何も言わないが、一番良く茂っている。しょん便の時、覗き込んで見たからぼくは知っている。
「さあ、どうだったかな? 生えていたような、生えていなかったような……」
 曖昧な返事をする僕に、みんな想像を膨らませている。実際はしっかりと見ていた。でも、僕だけの秘密にしておこう。その方が都合がよさそうだ。

「健! 喋ったら承知しないからね」
 いつの間にか僕の横に立っている美紀が睨んでいる。
「美紀、健に裸見せたのか?」
 武彦が美紀に問いただす。
「み、見せてないって……。健の言うことなんて嘘ばっかだから……、し、信じちゃだめだよ」
 美紀の慌てぶりに、みんな、僕が裸を見たことが事実だと確信する。
「美紀ちゃん、健君に裸見せたの?」
 いつの間にか、僕らの輪に入ってきた彩ちゃんまで心配そうに美紀を見上げる。
「もう、知らない!」
 美紀は顔を真っ赤にして逃げていった。女友達の目が、一番恥ずかしいみたいだ。

 放課後まで美紀は平静を装っているが、どこか恥ずかしそうにしていた。女の子同士話をしていても、視線が合うと美紀は下を向き視線を逸らす。相手の子は別に美紀の裸のことを話題にしてるわけじゃないのに、なぜか美紀は恥ずかしそうに頬を紅くした。

「彩ちゃんも一緒に帰ろう」
 美紀の誘いに彩ちゃんは、プイッと顔を背けた。
「いやっ! わたし、武彦君たちと一緒に帰る。健君も一緒に帰ろう」
 あれっ? 美紀と彩ちゃん、喧嘩でもしたのかな? 今朝は一緒に登校してたし、学校で喧嘩した様子はなかったし……。僕の不思議がる表情をよそに、僕を誘った。
「友達は大切にしなきゃいけないんだよ。一緒に帰ろう」
 彩ちゃんは真剣な顔で僕を見詰める。

 美紀も驚いているようだ。
「どうしたの? わたしと一緒に帰らないの?」
「美紀ちゃん、一人で帰れば……」
 彩ちゃんは、冷たく言い放った。美紀には、親友の彩ちゃんの態度が信じられない。
「な、なに? あの態度……。頭きた。じゃあそうするわ。フンッ!!」
 美紀は、ぷいっと身を翻しさっさと歩き出した。でも、強気な言葉とは裏腹に背中が悲しそうだ。僕は、見てしまった。振り向くとき一瞬覗けた瞳は、涙で潤んでいるように見えた。

 僕らは、どうでもいい話題に話の花を咲かせながら歩いた。彩ちゃんも、必死で僕らの話に合わせようとしているみたいだ。女の子には興味のない話でも、『へえ』とか『そうなの?』とか相槌を打っている。いつの間にか、いつもの遊び場、公園に着いた。しかし、何をするでもなく無駄話は続いていた。

 ボクらは、植え込みの中、ぽっかりと空いた空き地、僕らしか知らない秘密の溜まり場に彩ちゃんを招いた。公園の中の歩道から、周りに誰もいないのを確認して、『ほらっ、いまだ! 急げ!!』の号令で這うように植え込みの下を潜り抜ける。5mも這うと、空き地に抜ける。ここはボクらだけの秘密基地なんだ。一樹が家から持ち出したブルーシートを廻りの木に吊るし、少々の雨なら凌げるようにしている。彩ちゃんも、公園の中にこんな場所があるとは知らなかったようだ。回りを見渡しているが、ここからは周りの木々しか見えない。まるで森の中に迷い込んだ子犬のようにキョロキョロとしている。一樹は、おやじさんからかっぱらってきたエロ本を隠すのにあたふたしている。僕らの性の知識は、このエロ本から得たものだ。

「すごいだろ? ここなら誰にも知られずに秘密の話が出来るんだぜ」
 武彦が自慢げに言う。
「すごいね。公園の中にこんな場所があるなんて……」
「誰にも言うなよ。俺たちだけの隠れ場なんだから」
「ウン」
 僕たちは、クラスメートの噂話をした。誰々のお母さんは怖いとか、化粧がケバイとか、くだらない話だ。もちろん恋バナもする。誰は誰が好きだとか……。ちょっと態度がおかしいだけで、噂話の標的にされる。僕なんか、何人の女の子と付き合ったことになっているか。

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