ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 同じ屋根の下の少女5

 武彦が、話題を美紀の裸の話に振った。みんな、その話をいつ始めるか迷っていたみたいだ。なにせボクらの中に、今日は彩ちゃんがいる。彩ちゃんは、美紀の親友だ。それに可愛い。変な話をして彩ちゃんに嫌われるのも嫌だ。ボクらが美紀の裸の話をしていたことを、美紀に知られるのもまずい。でも、好奇心には敵わなかったみたいだ。武彦が口を開くと、みんな生き生きした目を僕に向けた。

 やっぱり彩ちゃんは、この話題が嫌なみたいだ。彩ちゃんのことも気になったけど、僕は秘密の誘惑に負けた。
「美紀の胸って小せえの。姉ちゃんの半分くらいかな? あれじゃあ、ブラジャーがかわいそうだな」
「お前の姉ちゃんの半分って言ったら、結構あるんじゃないか? だって、美紀だけだぜ、クラスでブラジャーしてんの……」
「まあ、これからってところかな。期待は出来るな」
 僕たちは、興味のある話に口が滑らかになってしまった。

「み、みんな……、健君のお姉さんの胸、み、見たことあるの?」
 彩ちゃんが、上目遣いに聞いてきた。
「あるある! でかいよな。Dカップはあるよな、あの大きさじゃあ……。乳首も綺麗なピンクで……」
 まずい! 俺たちが姉ちゃんを騙して裸を見たことがばれてしまう。武彦が慌てて一樹の口を塞いだ。
「むうんんん……」
 一樹が、苦しそうに喘ぐ。
「う、うそ!! 一樹の妄想だよ。なっ、なっ、僕たちが健の姉ちゃんの裸、見れるわけねえじゃん、なっ、なっ、なっ……」
 僕らはみんな、真顔になり首を縦に振った。

 彩ちゃんは、目に涙をいっぱい溜めている。何か喋りたいのか、唇がピクピク動く。それとも怒ったのかな? でも、やっとの思いで開かれた唇からは、意外な台詞が零れ落ちた。
「わっ、わたしだって健君に裸見られても、へ、平気だもん。健君のこと……、好きだから……」
 彩ちゃんは、今にも泣きそうな潤んだ瞳で僕を見詰めた。でも、泣きそうな彩ちゃんの心配よりも、『はだか』って言葉の方が僕の心を捉えた。おおっ、合法的に女の裸を見られるチャンスだ。自分から見せてもいいって言ってるんだ。ボクらには罪はない。『据え膳食わぬは男の恥』って言葉も知っている。

「彩、全部脱ぐんだぞ。それでもできるのか?」
 僕は初めて彩ちゃんを呼び捨てにした。こういう時は、勇気を出して強気に出たほうが良い。姉ちゃんの裸を見たときに学んだ教訓だ。弱気になっては負けだ。
「で、できるよ。へ、平気だもん……」
 僕の威圧的な態度に、彩ちゃんも負けまいと強気を装っている。女の意地ってやつかな?
「けっ、健君に……だけだよ……」
 彩ちゃんの声が震えている。強気を張ったものの、やっぱり恥ずかしいみたいだ。
「健君意外はみんな、目瞑ってて……。恥ずかしいから……」
 彩ちゃんは、胸の前で手をぎゅっと握り締め俯いたまま言った。

 みんな、うん、うんと頷き、掌で顔を覆う。しかし、指に隙間を作りしっかり覗いている。彩ちゃん、気付かないのかよ。本当に素直でかわいい。みんなが見ないと言ったら、信じ込んでいる。

 彩ちゃんは、ゆっくりとTシャツの裾を捲っていった。可愛い臍の窪みのある真っ白なおなかが現われる。彩ちゃん、ガンバレ! もう少しでバストだ。そこで彩ちゃんの手が止まる。焦らすのは女の専売特許かよ、もう少しなのに。ボクらの期待を察したのか、彩ちゃんの腕が再び動き出した。そして突然、胸、ブラジャーも必要ないペッタンコの胸が現われた。そうだ、彩ちゃんはまだブラジャーしていないんだ。美紀よりずっと小さいバストなのに、やっぱりドキドキする。彩ちゃんは、ゆっくりTシャツを首から抜いた。

 僕の頭の中には、さっき彩ちゃんが言った言葉が巡っていた。
『健君に裸見られても、へ、平気だもん……、裸見られても、へ、平気だもん……。健君のこと……、へ、平気だもん……。健君のこと……、好きだから……、健君のこと……、好きだから……』
 えっ? 好きだから……? 好きだから? 僕のこと? このとき初めて、僕と美紀を見る彩ちゃんの不安そうな顔の意味がやっと判った。美紀に嫉妬してたんだ。僕が美紀と暮らしていること、美紀のことばかり話題にすることを……。

 このとき、僕には変な男心が働いた。女を守るのが男だ! それが好きでいてくれる女なら、なおさら……。自分を好きでいてくれる女の子を守らなければ……。
「見るな!! お前ら! 見るな!」
 僕は、両手を大きく広げ彩ちゃんの前の立ちはだかった。みんなの視線から彩ちゃんを守らなくちゃ……! でも、少し遅かった。

「ううっ、ううう……」
 亮太が鼻を押さえている。指の間から赤いものが……。鼻血だ、鼻血を出してるんだ。
「亮太君、どうしたの?」
 彩ちゃんは、身を隠すように僕の背中に貼り付いた。僕の背中越しに首を傾げ、同級生の裸を見て鼻血を流している亮太を心配している。僕は僕で、背中に押し付けられた彩ちゃんの裸の胸に神経を集中している。でも彩ちゃんは、全神経を背中に集中して押し付けられた胸を感じようとしている僕に気付きもしないで強く押し付けてくる。
「うっ! お、お、お、俺……、み、み、見てないよ。み、見てない……」
 亮太興奮して発する言葉はしどろもどろだ。身体はでかいのに、心臓は蚤より小さいかもしれない。姉ちゃんを騙した時も、亮太がへまをした。
「大丈夫? 亮太君……」
 本当に彩ちゃんは優しい。裸を見てHな気分になった亮太を心配するなんて……。と言うか、そんなことすら気付いてないのかも知れない。彩ちゃんの裸が鼻血を出させたことを……。

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