ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 同じ屋根の下の少女7

「パンツも汚れちゃったわね。わたしのパンツ、貸してあげるわ」
 美紀は、うちで風呂にも入っている。だから代えのパンツも持っている。でも、言い出せなかったみたいだ。姉ちゃんは、美紀を着せ替え人形のように扱っている。自分のパンツを色々取り出し宛がってみる。
「わたしのじゃあ、大きいわね。あっ! そうだ! これがいい」
 姉ちゃんの取り出したのは、一度も穿いたことない紐パンだ。もしもの時のために用意された勝負パンツだ。前も後ろも布地の面積が少ない、スケスケのレースのパンティ。
「これならウエストの調節がいくらでも効くわ」
 美紀は、一瞬、ゲッ! と思う。
「そ、それは……」
「大丈夫よ。これ、一度も使ってないから」
 美紀の困惑に、トンチンカンな回答をする姉ちゃんに、優しくしてくれている姉ちゃんに、美紀は断ることが出来なかったみたいだ。

 ナプキンを船底に張られたパンティーを身に着けた美紀は、大人になったように余韻に浸っていた。初潮を迎え、レースのスケスケの紐パンを身に着ける。昨日までは考えてもいなかったことばかりだ。子供の自分には関係ないと思っていたことが、今日は自分の出来事として起こっている。下半身に弱々しく張り付いたパンティーを眺め、大人になった自分をハニカミながら嬉しくも感じていた。

 姉ちゃんは、棟続きの薬局に行き母ちゃんを呼んで来た。
「えっ? 美紀ちゃんに初潮が?」
「そう、美紀ちゃんも大人の仲間入りね」
 姉ちゃんは、美紀にウインクした。
「じゃあ、赤飯炊かなくちゃね」
 姉ちゃんの時以来の出来事に、母ちゃんは、なぜか嬉しそうだ。
「お母さん、古い。赤飯なんて誰も喜ばないわよ。そうだ! ケーキよ、ケーキ。ねえ、美紀ちゃん、ケーキが良いよね」
 姉ちゃん、自分の好みを美紀にも押し付ける。確かに、僕だって赤飯よりケーキの方が嬉しい。たぶん美紀も……。
「うっ、うん……」
 美紀は、母ちゃんに気を使いながらも姉ちゃんの提案に頷いた。
「大人になった二回目の誕生日……。ねっ、わたしケーキ買ってくる。お母さん、お金頂戴」
 姉ちゃんは、母ちゃんから財布を受け取ると即行でケーキ屋に向かった。



 僕が帰ると、もう夕食が準備されていた。いつもより、ちょっと豪華な感じがする。お寿司にハンバーグまで添えられている。それに、姉ちゃんも母ちゃんもニコニコしている。その中、美紀だけが頬を染め俯いている。
「どうしたの? 今日のご飯、豪華じゃん」
「どうでも良いから、早く手、洗ってらっしゃい」
 僕の疑問を無視して、姉ちゃんは僕を急きたてた。

 何より驚いたのは、食事が終わるとイチゴの載ったショートケーキが出てきたことだ。デザートが出てくるなんて、こんな洒落たことが起こるのは、我が家ではないことだ。
「やっぱり変だよ。どうしたんだよ」
 食事中、ずっと気になっていた。本当を言うと、大好きな寿司を食べてる時は忘れてた。僕は思い出した疑問を、姉ちゃんにぶつけた。
「あのね、美紀ちゃんにね、……」
 姉ちゃんが、夕食の秘密を喋りだした。美紀に初潮が来たことを告げた。
「えっ? 美紀が? 男みたいな美紀が……?」
 僕は、わざとらしく驚いて見せた。でも、視線は、目の前のケーキに向けられている。
「へえ、そうなんだ。でも、これ、うめえ!」
 僕は、あまりにもあっさりと相槌を打った。美味しい物を食べているときの満足感は、Hなことを考える気も好奇心も奪い取ってしまうらしい。
 僕は、ケーキに舌鼓を打ちながら美紀が大人の女性の仲間入りをしたことを知らされた。
「健のバカ! 恥ずかしい……」
 デリカシーのない僕の態度に、美紀が呟いた。美紀の声は、いつもとは違っていた。迫力がない。女みたいな声だ。頬を染め俯いたまま、上目使いに僕を見た。同級生の男に知られるのは、やっぱり恥ずかしいらしい。でも、美紀が頬を染めていたのは、そのことだけではなかった。僕は知らなかったが、紐パンが捩れて、お尻に食い込んでいたらしい。



 美紀は、迎えに来たお父さんの車の助手席に座り、恥ずかしそうに俯いている。車の横では、美紀のお父さんと僕の母ちゃんが話をしている。美紀が初潮を迎えたことを話しているんだろう。美紀のお父さんは、顔を紅く染めながら頭を掻いている。どうしたら良いのか判らないんだろう。話は長い間続いたが、『わたしに任せなさい、ハハハ……』と母ちゃんの笑い声で終わった。美紀のお父さんは、頭を深々と下げていた。
「うちには、ナプキンも売るほどあるからね、ハハハ……」
 当たり前だろ! うちは薬局なんだから……。

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