ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ Hなマンガ1

「Hって気持ちいいのかな?」

 ボクらは、一樹が持ってきたエロ本を眺めながら話をしていた。場所は、いつもの公園の奥の秘密基地だ。今日、一樹がお父さんのトラックの助手席からかっぱらってきたのは、女の人が縛られ犯されてる漫画だ。そこには、全裸の女性が縛られ、男たちに嬲られている絵が描かれている。オッパイは上下に縄を掛けられ、ぷっくりと飛び出している。お腹にも股にも縄が食い込んでいて、男たちの手がオッパイに、股間に伸びている。女の人の身体には汗が浮いて、いやらしく輝いている。同じように汗を滴らせ髪の毛が張り付いた顔の横に、女の人が吐く台詞が、『ああん、あん、いい、いいの……』と書かれていた。

「やっぱ、気持ちいいんじゃねえか?」
 武彦がポツリと呟く。しかし、真っ赤に紅潮させた顔はマンガに向けられたままだ。
「でも、この顔、辛そうに見えるけどな?」
「それは縛られてるからだろ?」
 誰一人、マンガから視線を外すものは誰もいない。五人の視線が一冊のマンガ本に向けられている。

 確かに、漫画に描かれてる女の人の顔は苦しそうにも見える。気持ちよさそうだって言えば、そのようにも見える。

「そうか? ほら、ここ……。『いい、いい、気持ちいい』って書かれてるぞ。縛られてもきっと気持ちいいんだよ?」
 武彦は、誌上に大きく書かれた台詞を見詰め言う。そこには、半開きになった口から発せられた台詞が、大きく書かれている。

 いったいどっちなんだ? ボクらの疑問は、募るばかりだ。

「縛られてても気持ちいいのかな? セックスって……」
 全員が一斉に首を傾げる。目はマンガに向けられたまま……。
「セックスって気持ちいいのか……?」
 また、みんな一斉に首を傾げる。しかし視線をマンガから外す者はいない。

 ボクらのセックス談義は、いつも最後に?マークが付く。周りから見ると、ボクらの頭の上には大きな『?マーク』が浮かんで見えているだろう。だって、誰も経験したヤツなんていないし、親に聞くことも恥ずかしくて出来ない。もし聞いたとしても、きっと教えてくれないだろう。それどころか、引っ叩かれるのが落ちだ。そんな危険なまねは出来ない。そしてボクらの疑問は、ますます大きくなっていく。

 マンガを読み終えても、みんな顔が紅潮している。火照った顔を冷ますように、上向いてポーーーとしている。そんな中、武彦がポツリと提案した。
「誰かに頼んでみる? 縛らせてって……」
 OKしてくれるヤツなんて、誰もいないだろう。クラスの女の子たちは、いつも悪戯ばかりしてるボクらを警戒している。頼み事をしようとすると、内容を聞く前に『イヤッ!!』と断ってくる。みんなその事は自覚しているから、武彦の提案を無視してマンガで興奮した余韻に浸っている。

「彩ちゃんに頼んでみようか。健が頼めば、OKするんじゃないか?」
 実が空に浮かんだ白い雲を見上げたまま、独り言のように言った。空を見上げていたみんなが、一斉に実の顔に向く。名案、特に悪巧みの名案を察知する能力には、みんな長けている。
「そうだな。彩ちゃん、健のことが好きみたいだもんな。健のお願いなら聞いてくれるよ」
 ボクを除く四人が、名案だとばかりに身を乗り出しボクを見詰める。同意を求めるような視線で……。
「そうだよな。裸、見せてくれたもんな」
 武彦は、ボクを説得するような視線で言う。

 そう、先週、彩ちゃんはここで、裸をボクらに見せてくれたのだ。
『健君に裸見られても、へ、平気だもん……』、そう言ってボクらの前で服を脱いだ。みんな、チ○ポを大きくさせ、亮太は鼻血まで流した。

『彩ちゃんを縛るなんて、そんなこと出来ない』
 男らしく、そう言いたいけど四人の真剣な視線を浴びると、その言葉が出てこない。いや、みんなの視線が言葉を出すことを止めているって言うのは違うかも……。もう一度、彩ちゃんの裸を見て見たい、縛られたらどうなるのか知りたい、そういう欲望と彩ちゃんを縛るなんて悪いことだと言う少しの良心が頭の中で鬼ごっこしている。
「うっ!!」
 ボクの口から出てきたのは、言葉を詰まらせた呻きだけだ。
「うんって言った? 健? うんって言ったよな」
 武彦が、同意を求めてみんなの顔を覗きこんだ。
「うんって言った。確かに聞こえた」
 四人は、ボクの呻き声を都合のいいように聞き間違えた。

「あ、明日、彩ちゃん誘ってこよう」
「うん、そうしよう」
 みんなは、早速、明日の計画を立て始めた。ボクの意見を聞こうともしないで。
「ま、待てよ」
「健、照れるなよ。彩ちゃんは健が好きだからダメってなんか言わないよ」
 計画に躊躇するボクを、悪事の共犯者にしようとボクの言葉を茶化す。
「違うって!」
「いいって、いいって。健、照れるのは判る。この色男! 裸見せてくれる女の子がいる男なんて、健しかいないもんナ。なっ、なっ、健!」
 誰もボクの話しを聴こうとしない。無視してるわけではない。ボクに同意を求めても、ボクが返事をする前に次の話に移ってしまう。完全に共犯者にしようとしてる。この手は、僕らが悪巧みをする時のいつもの作戦だ。
「縄はどうしよう?」
「縄って、本当に縛るのか?」
 ボクは、会話の間隙を縫って話しかける。しかし、ボクの話は無視される。
「縄なら俺んち、いくらでもあるぞ。なんたって運送屋だから……」
 お父さんがトラック運転手の一樹が、ボクの言葉に話を被せてくる。
「そうだな、縄の準備は一樹に任せた」
 四人の悪巧みは、どんどん話が進んでいく。ボクの困惑を無視して……。

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