ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ Hなマンガ2

「彩ちゃん、俺らの秘密基地に来ない?」
 放課後になったらすぐ、ボクらは彩ちゃんを誘った。

 縄は、すでに一樹が用意している。朝、学校に来る前に公園に寄って、秘密基地に隠してきた。

「健君も行くの?」
 彩ちゃんは顔を俯かせ、上目遣いにボクを見て言う。
「う、うん……」
 ボクへの好意を利用することに、少し罪悪感を感じるが仕方ない。でも頭の中では、罪悪感より好奇心の方が大きな面積を占めている。そう、ボクら子供は、いつでも冒険家なのだ。知らない世界があるならば、ボクらは探検の旅に出なければならない。そこに、どんな困難が待ち受けていようと……。

「彩ちゃん、大丈夫? こいつら、また何か悪企みしてるよ」
 ボクの表情を見抜いた美紀が、心配して彩ちゃんに忠告する。彩ちゃんが裸を見せたことは、美紀は知らない。ボクら、六人だけの秘密になっている。でも、ボクらの緩んだ顔を見て、美紀は嫌な予感を感じたのだろう。女の勘は鋭い。

「この五人が揃ってるってことは、きっと悪企みだよ」
 美紀が彩ちゃんに忠告する。
「なに企んでるの? 白状しなさいよ、健!」
 美紀は、僕を鋭い視線で睨み見つける。
「健! なに企んでるの? どうせ悪いことでしょ!」
 美紀がボクのことを呼び捨てにしたことが、彩ちゃんの心の隅を突っついた。
「健君がいるから心配ないもん。健君は優しいもん。行こっ! みんな!」
 彩ちゃんは、美紀からプイッと顔を背けボクらの先頭に立った。そして振り返って美紀に言った。
「美紀ちゃんは付いて来ないでね。秘密基地だもん」
 彩ちゃんは、美紀が来ることをきっぱりと拒んだ。やっぱり美紀に対抗心を持っているんだ。ボクのことになると……。
「そう! じゃあわたし帰る。お姉さんに勉強、教えてもらうもん」
 お姉さんって言うのは、ボクの姉ちゃんのことだ。美紀に初潮が始まった日、あの日以来、美紀は、優しく面倒を見た姉ちゃんを慕っている。美紀は頬っぺたを脹らましたまま、さっさとボクの家に向かって歩いていった。

「美紀、なに怒ってんだ? 変なヤツ!」
「変だよね、美紀。さあ、行こう、彩ちゃん」
 ボクらは脹れっ面で帰っていた美紀に不平を言いながら、彩ちゃんを取り囲み公園への道を急いだ。

 ボクらはみんな、彩ちゃんの警戒心と心配を取り除こうと、冗談や笑い話をして彩ちゃんを和ませる。秘密基地への道すがら、彩ちゃんを笑わせていた。でもボクは笑えない。良心がチクチクと痛んでいる。



 その頃、美紀は家に着いていた。
「あら、健と一緒じゃないの?」
 一人で帰ってきた美紀に姉ちゃんが言った。姉ちゃんは、試験があったとかで、いつもより早く帰っていた。
「健君、みんなと遊びに行っちゃった。寄り道はだめだって言ってるのに、もう……」
 ぷーと頬を脹らませ、美紀は不平を言う。
「美紀ちゃん? なに脹れてるの?」
「脹れてなんか、いないもん!」
 美紀はますます頬を脹らませた。

 微笑ましく美紀の脹れっ面を見ている姉ちゃん。
「そう、ふふふ。じゃあ、わたしの部屋で勉強する?」
 姉ちゃんは、優しく美紀を自分の部屋に誘った。
「はい」
 美紀の顔に笑顔が戻る。美紀は、姉ちゃんに憧れてる。姉ちゃんの本当の姿を知らないんだ。ボクの頭を殴る姉ちゃんの暴力性や、ボクの弱みに付け込む腹黒さを知らないんだ。大抵は、ボクの悪戯が原因なんだけど……。

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