ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ お泊り2

「彩も泊まりに行く。ねっ、いいでしょ? ねっ、美紀ちゃん、一緒に泊まろうね、ねっ!」
 お昼休み、彩ちゃんはボクのところに来て言った。その後ろで美紀は困った顔をしている。彩ちゃんに頼まれ、断れなかったのだろう。それはボクだって一緒だ。彩ちゃんの無邪気なかわいい顔で頼まれると断れる人間はいないだろう。
「いいけど……、家の人、大丈夫?」
「うん、大丈夫。帰ったらすぐにママに言うから」
 彩ちゃんは、すっかりボクの家に泊まる気になっている。自分だけがその気になっている。でも、彩ちゃんの嬉しそうな顔を見ると誰もイヤだとは言えないだろうな。

 ボクが断らなかったことに美紀も、ほっとした表情を見せる。ボクが断ったら、美紀の立場も微妙になる。美紀が泊まるのは良いけど彩ちゃんはイヤだって彩ちゃんに誤解を受ければ、彩ちゃんと美紀の友情にもヒビが入ったかもしれない。ボクと美紀の関係が、変な噂になったかもしれない。ボクが断らないことが、現状では最善の方法だろう。
 彩ちゃんは、自分の無邪気さが他人に迷惑を掛けることもあるって気付いていないだろうな。ボクは、満面の笑顔の彩ちゃんとほっとした表情の美紀が嬉しそうに話す後ろ姿を見送った。うん? 後ろ姿だから表情は見えない? いやっ、背中を見ても表情が判るほど嬉しそうな彩ちゃんだった。

 でもこの時、ボクは背中に鋭い視線を感じていた。何か鳥肌が立つようなゾクゾクとした予感を感じていた。

 掃除の時間、いつもの五人が集まっていた。箒を左右に動かしてはいるものの、先は床に届いていない。掃除をしているフりだ。無駄話に時間を費やしている。
「美紀と彩ちゃんが泊まりに来るの?」
 彩ちゃんが昼休みボクのところに来たのを盗み聞きしてた亮太が聞いてきた。
「うん」
 美紀が泊まることは知られてるし、一人増えただけだと思って、ボクは簡単な気持ちで答えた。さっき感じた変な予感なんて、完全に忘れて……。しかし、それが大きな間違いだった。

「チャンスじゃん」
「何が?」
 武彦の言葉に、ボクはキョトンとした。何がチャンスだと言うんだ?
「考えてみろよ。泊まるって事は、風呂にも入るって事だよな」
 武彦は生き生きとした目で話を続ける。
「うんうん」
 ボク以外の三人は大きく頷いている。
「風呂に入るって事は、当然裸になるってことだよな」
「えっ? もちろんそうだろ。服着たまま風呂入るヤツはいないだろ」
 またも、ボク以外の三人は大きく頷いていた。

 武彦はちょっとタメて、そして自慢そうに言う。
「二人の裸、見れるかもよ。それもフルヌードだぞ」
 みんな一斉に目が輝いた。みんな同時に、武彦の考えを理解した。
「そうだよね。こんなチャンス、めったに無いよね」
「見たい。オレ、彩ちゃん!!」
「ボクは美紀! 最近、オッパイ大きくなったと思わない? で、どうすればいい?」
「何でもするよ。二人の裸見れるなら。何か用意するものある?」
 四人は、一気にテンションを上げ話をしている。
「で、どうすんだよ。頼んでも見せてくれないよな」
「覗くんだよね、内緒で……」
「でも、ばれちゃわないか? 美紀ちゃんは、その辺、敏感だぞ。鋭いぞ」
 みんな思い思いに、思い付いた事を言う。武彦が手を左右に開き、みんなをいったん制止する。
「まあ聞け。健がまず風呂に入って、窓を少し開けておくんだ。ほんの少しだぞ。開けすぎると見つかっちゃうから」
 ボクの立場なんて完全無視、四人はどんどん話を進めていく。何か言わないと、勝手に話が進んじゃう。一番危険なのはボクなのに……。
「ちょっと待てよ。オレはするなんて言ってないぞ」
「まっ、いいから健は……。ちょっと落ち着け。それから?」
 ボクの発言は完全無視、すぐ次に進む。落ち着いてないのはお前らじゃないか。落ち着いてボクの話も聞けよ。でも、今のみんなにはそれは無理な話だった。

「健、美紀と彩ちゃん二人が一緒に風呂入るように勧めろ。いいな!」
「どうしてだよ。協力するなんて言ってないぞ」
「健、俺たち友達だよな。友達を裏切るの? 友情ってそんなものなの?」
 一斉にみんなの冷たい視線がボクに向けられる。
「誰もそんなこと……」
 少し弱気になるボク……。
「そうだよな。健は友達を大切にするヤツだもんな。それでどうすんだ、武彦」
 今度は一斉に笑顔でボクを持ち上げる。
「まあ、考えてみろ。一人づつ入ってるところを覗くのはリスクが多い」
「どうして?」
「二人ではいれば、お互いの注意が相手に向くだろ? 話をしたり、お互いの裸を見たり……。でも、一人だと周りのことを見る余裕ができる。これは危険だ」
「うんうん」
 悪巧みをする武彦は、いつもに増して冷静だ。みんな武彦の言うことに相槌を打つ。
「一人づつ入られると、二回覗かなくちゃいけない。見つかるリスクも二倍になるしな。だから二人一緒に入ってる時を狙うのがベストだ。そこで健の出番だ。健が一緒に入るように仕向けるんだ」
「武彦、頭良い!!」
「健、いいか、絶対二人一緒に入るように仕向けるんだぞ」
「健! 頼んだぞ!!」
 そして四人の有無を言わせない視線がボクに向けられる。
「うっ……」
 みんなの強い希望の篭もったお願いに、ボクは言葉を飲み込み頷くしか出来ない。

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