ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ お泊り3

「風呂の窓って高いよな」
「うん! そうだね」
「脚立がいるな。脚立は一樹な」
「OK! オヤジの洗車用がある。それ、持って来るよ。トラック洗う時のだから、二人同時に上がれるよ」
「デジカメ、用意したほうがいい?」
「カメラはダメ! 証拠は残しちゃマズイよ。残していいのは記憶だけ」
 どんどん話は進んでいく。
「服は黒な。なければ紺でもいい。明るい色は絶対だめだぞ! 風呂場の明かりを反射して中から見えるかもしれないから……」
 こんなことまで気が回るのかよ、武彦は……。この頭を勉強に使えば東大だって無理じゃないのにな。ボクも思わず感心してしまう。
「じゃあ、顔も黒く塗る?」
「そこまでしなくていいだろ」
「そうだね」
 半分冗談も交えながら、計画は練られていく。

 それからは、武彦を中心に詳細計画の話し合いになった。こういう悪巧みにかけては、武彦の頭はフル回転する。着々と手順を決めていきみんなに役割を振り分けていく。みんなの疑問や不安に答えを出していく。
 何とかこの提案を逃れたいボクは、計画の矛盾点を指摘していく。なんたって、失敗したときのリスクが一番高いのはボクだ。しかし武彦に、ことごとく潰された。少々の矛盾は、友情という心地よい響きの言葉の影に隠される。そしてボクは、この悪巧みに加担することを完全了承させられたのだ。

「美紀ちゃんと彩ちゃんの裸か……」
 計画が決まると、みんな視線を宙に泳がせ妄想している。彼らの頭の中には、きっと二人の裸が浮かんでいるはずだ。ボクも、みんながこんなこと想像してんだろうなって思ったら、下半身がズキッとした。美紀と彩ちゃんの裸の絵が、ボクの頭の中にもはっきりと見えたから……。



 学校も終わって、帰り道……、美紀が怪しい視線をボクに向けている。
「さよなら」
「じゃあ明日。バイバイ」
 みんなにこやかにボクと美紀に挨拶して帰っていく。
「すぐ行くからね。待っててね。うふふっ!」
 彩ちゃんの笑顔だけが本物で、他のやつ等の笑顔には邪心が籠もっている。

「ねえ、今日は寄り道してかないの?」
「えっ!? どうして? 毎日、寄り道していくって決まってるわけじゃないし……」
「ふーーーん、珍しいこともあるんだ。雨でも降るのかな?」
 美紀は掌を上に向け、空を見上げた。雲ひとつ無い晴天である。あくまで晴天である、僕の気持ちとは裏腹に……。

 ボクと美紀が家に帰ってしばらくして、彩ちゃんは我が家にやってきた。こんなに早く来るなんて……、よっぽど大急ぎで用意したんだ、お泊りの……。よそ行きのようなフリルの付いたワンピースに、ふわっとしたスカート、そしてエナメルの靴。まるでどこかにお出かけのようにお洒落している。そして満面の笑顔の彩ちゃん。やっぱり彩ちゃんはかわいい。その後ろに、ちょっと困り顔の彩ちゃんのママが立っている。
(うわあー、すげえ美人……)
 不謹慎にもそんなことを思ってしまった。彩ちゃんのママは本当に美人だ。美人と言うよりのかわいい、小学生のボクが言うのもなんだけど……。なんたって若く見える。二十歳代前半? って思える。

 大きなバックを下げた彩ちゃんは、ボクの母ちゃんに笑顔でぺこりと頭を下げた。
「お世話になります」
 礼儀正しくボクの母ちゃんに挨拶してる。礼儀正しくてかわいい、そして無邪気な彩ちゃんは始末に悪い。誰にでも好かれる。そして何でも許してしまう。ボクだって……、彩ちゃんを嫌いな訳ない。彩ちゃんの裸を見られるなら、それがボクの家でなければ、ボクももっと積極的になれるのに……、同意の上で見れるならボクの家でも大賛成だ。けど、彩ちゃんの笑顔を見ると心が痛む。

「本当にすみません。約束したって言うもんで……」
 彩ちゃんのママは恐縮している。彩ちゃんの突然のお泊まり宣言に困っていたのだろう。でも、美紀も一緒に泊まると言うことでとりあえず納得したみたいだ。ボクとも泊まると約束した、ぜひ泊まりに来てとボクが言ったことになってるらしい。確かにボクにも、彩ちゃんに絶対に泊まりにきてもらわないといけない理由が出来てしまったけれど……。
「いいんですよ。一人泊まるも二人泊まるも一緒ですから」
「言い出したら聞かないもんで……」
「ご遠慮なく。美紀ちゃんも一人じゃ寂しいでしょうから」

 ボクの母ちゃんと彩ちゃんのママが話してる横で、相変わらず彩ちゃんはご機嫌だ。ボクらの方に向かって笑顔で手を振っている。ご機嫌の彩ちゃんを見てるとボクの良心がチクチク痛む。あいつ等に唆(そそのか)されたとはいえ、悪巧みに荷担しているのは事実なんだから。ボクは、引き攣った笑顔で手を振り返した。

 ボクの横で美紀が疑いの視線をボクに向けている。美紀は帰り道からボクを不審に思っていた。計画を悟られないよう、慎重にならなくちゃ……。女の感は鋭いもんナ。

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