ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ お泊り4

 ボク達三人は、リビングで宿題をしている。でも、ボクはぜんぜん進まない。どうやって風呂に二人を入るように勧めようかと、そのことばかり考えている。武彦たち、もう一時間くらい風呂場の窓の下でじっと身を潜めてる。
「美紀ちゃん、ここはどうやるの?」
「これはね、こうなってこうすれば……」
 もう宿題を全部終わった美紀が、彩ちゃんに教えている。彩ちゃんももうすぐ終わりそうだ。ボクだけが宿題、ぜんぜん手に付いていない。
「健君、ここはこうするんだよ」
 見兼ねた彩ちゃんが、ボクの宿題を覗き込み教えてくれる。彩ちゃん、そんなに優しくしないでよ、ボクの心が痛むから……。でも、嬉しい。美紀は絶対教えてくれないからな……。教えてくれても、文句を百倍言いながらだからな。
「健、人に頼ってばかりじゃダメよ。自分でも考えなさい」
 リビングの入口でアイスクリームを舐めながらボクらの様子を見ていた姉ちゃんが、口を挟む。ボクの宿題がぜんぜん進んでいないのを見てたんだ。答えが書いてあるのは彩ちゃんが教えてくれたとこだけ……。普段ならもう少しできるのにな……。今日の宿題が進まないのは……、ボクの頭が悪いからではない、けっして無い。この後のことが気掛かりだからで……。

「ふう、終わった……」
 ボクの宿題が終わった。ほとんど彩ちゃんが教えてくれた。彩ちゃんがボクに掛かりっきりになってるのを見兼ねた美紀も、不平を言いながらも手伝ってくれた。美紀、嫉妬してる? ボクと彩ちゃんが肩が触れ合うほど近くで、二人で宿題をしてたのを……。
「お風呂、沸いたわよ。冷めないうちに入りなさい」
 ちょうど良い時に、母ちゃんの声が風呂場の方から聞こえた。母ちゃんはお風呂の準備を終えると、再び店に出た。儲かっていない薬局だけど、夜遅くまでやってるので近所のみんなには重宝されてるみたいだ。だから閉めるわけにも行かない。おばあちゃんたちのお喋りの場なんだ、うちの薬局は……。美紀と彩ちゃんは、一緒に風呂に入ろうねって嬉しそうに話している。きっと、ちょっとした小旅行気分なんだろう。それなら好都合だ。ボクが変な細工をしなくてもすむかもしれない。
「じゃあ、俺からはいるね」
 ボクは、自分の部屋に行って着替えを取り風呂に向かった。

 ブクブクブク……。

 ボクは顔を半分お湯に浸け、泡を吹いた。
「ふう、やっぱりやらなくちゃいけないだろうな」
 ボクは湯船に浸かりながらため息をついた。もし約束を破ったら、みんなはボクをどう見るだろう。卑怯者って思うかな? 臆病者って言われるかな。除け者にされるかなあ。みんなの落胆する顔が思い浮かぶ。それより、好きな女の裸見せたくないから約束を破ったんだろうって非難されるかもしれない。一週間はそう噂されるだろう。そうでなくても美紀とボク、みんなに冷やかされてるんだから、新婚さんなんて……。

 コンッ、コンッ。

 風呂場の窓かノックされる。
「いつまで入ってんだよ。健は、さっさと出ろよ、待ってんだから」
「判ってるよ。ちょっと待ってくれてもいいだろ」
 武彦の催促に押され、ボクは風呂を上がることにした。

 ボクは風呂を出るとき、そっと窓の鍵を外した。そして、窓を開ける。そして、窓の外で待っているみんなに声を掛ける。 
「これから二人、入るぞ」
「適当に理由を付けて出て来いよ」
「判った」
 ボクは、小指の太さくらいの隙間を窓の両サイドに残し窓を閉めた。

 湯上りのボクは、電話を掛ける振りをしている。そのボクに、手に着替えの入った袋を持って風呂場に向かう美紀が声を掛けた。
「誰から電話?」
 彩ちゃんも手に着替えの袋を持っている。あの中に……、パンツもブラジャーも入ってるんだ。ううん、いまこんな妄想をしてちゃダメだ。もっと凄いこと計画してんだから……。
「亮太から。何か急用だって、ちょっと出かけてくる。お風呂、ゆっくり入ってて!」
 ボクは外出する口実を作り、慌てて外に出た。
「!?」
 美紀が怪訝そうに首を傾げる。しかしボクは、見て見ぬ振りで玄関を出た。

「あら、美紀ちゃん、彩ちゃん、お風呂?」
「はい」
「私も一緒に入っちゃおうかな」
「はい。お姉さんも一緒にどうぞ」
「じゃあちょっと待ってて」
 ボクが家の外に出た後、姉ちゃんと美紀、彩ちゃんの間でそんな会話が交わされていたとは知らなかった。

 外に出て、ボクは風呂の所に回った。四人がしゃがんでボクを手招きしている。窓の下には、すでに脚立が置かれていた。幅の広い脚立は、余裕で二人は載れる。

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