ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ お泊り5

「遅いぞ、健」
「すごい待ったぞ。早く来いよ」
 みんな文句を言ってる割には、目は期待に輝いて笑顔になっている。
「まずは健と一樹だな。健は一番の功労者だし、一樹は脚立を準備してくれたし」
 一樹は声を抑えてガッツポーズをして脚立に上がる。ボクは仕方なく上がった。でも、心臓はドックンドックン鳴っている。それを悟られないよう仕方なく上がる振りをしたんだ。
「健、一樹、これを被れ」
 渡されたのは黒い紙で出来た円筒の筒。新聞紙を墨汁で黒く塗り、円筒にしただけのものに小さな穴が二つ開いてる。
「これ被れば、完璧だろ。絶対中から見えないだろ」
 武彦の説明に、実が自慢げに鼻を擦った。この覆面は実の発案らしい。見栄えは悪いけど、確かに効果はありそうだ。

 僅かに開いた窓の両サイドにボクと一樹は立って、隙間から中を覗く。心臓がバクバクと音を立てている。姉ちゃんの裸は見慣れてるのに、姉ちゃんの方が胸も大きくHな筈なのに、同級生の裸を見ようとしてるだけで、どうしてこんなに緊張してるんだろう。同級生だと、スカートからパンツが覗くだけでドキッとしちゃうんだろう。

 風呂のドアが開き、一人目が入って来た。美紀かな? それとも彩ちゃん?

 堂々と前も隠さず入ってくる。人が見ていないと、女同士だと大胆になるのかな? 羞恥心なんてなくなるのかな?
 もう毛が生えてるかな? 淡いかげり……!? えっ? 嘘!! すげえ濃い……。この前、美紀のを見たときは産毛みたいなのが少しあっただけなのに。少しの間にこんなに生えてくる? そんなはず無いよな。じゃあ彩ちゃん? そっ、そんなバカな。美紀にしても彩ちゃんにしても幻滅だ。それにお尻だって大きい。あっ、そうか。狭い隙間から見てるから遠近感が狂ってんだ。お風呂の明かりはそんなに明るくないから、影になってんだ。そういう訳なんだ。
 視線を上に移す。あれっ? 腰は細いぞ。遠近感が……、緊張で視覚がパニクッてる? それとも、妄想が理想の裸を絵して、そう見せてる?
 もう少し上に視線を移す。すげえ大きな胸……、幼そうに見えても服の下にはあんなにエロい身体を隠していたの? あんなにかわいいのにエロい身体を……。いやいや、可愛いのは彩ちゃんだけ、美紀は生意気なだけだ。大人しくしてれば美人だけど……。ボクは視線をさらに上げて顔を見る。

 !?

 そこには、ボクが最も見慣れた女の子の顔があった。いやいや、女の子じゃない、姉ちゃんだ。
 やべえ! ばれたらどうしよう!
「ひええぇ……!」
 ボクより驚いたのは一樹だったみたいだ。今まで聞いたことのないすっとんきょな声を上げた。緊張していた頭が、予期せぬ出来事に悲鳴を上げさせた。

「だれ? 誰なの?」

 ガタンッ! ドスッ! ガタゴトガタンッ!!

 予想外の出来事、姉ちゃんの出現、声に驚いた一樹はバランスを崩し脚立から落ちた。落ちるとき、何とか体制を守ろうとボクの腕をつかんだ。そして、ボクまで下に引きずり落とされてしまった。
「痛てててて」
 逃げなきゃ。でも、一樹の悲鳴が聞こえる。悪いことに、被っていた覆面がずれ、何も見えない。
「誰!?」
 風呂から姉ちゃんの声が聞こえる。
「やべえ、逃げろ」
 亮太の声が暗闇に響く。のんびり屋の亮太にしては緊迫した声だ。
「くおおらあああ!!」
 姉ちゃんの腹の底に響く低音の怒鳴り声が窓の隙間から飛び出してくる。その声は、まるでボクサーのパンチのようにボクらに襲いかかってきた。マンガだと、窓の隙間から飛び出す吹き出しに石の様な台詞が描かれるんだろうな……。

 こんなこと考えてる場合じゃあない! 逃げなきゃ、この低音を発する姉ちゃんは危険だ。視界を確保しなくちゃ。ボクは、新聞紙の覆面を破いた。でも一樹は蹲ったままだ。一樹はしこたま腰を打ったのか悲鳴を上げながら蹲っている。このまま逃げるわけにも行かない。逃げても帰ってくる場所は、この家しかないんだから……ボクには。
「一樹! 逃げろ!!」
「何も見えねえよ、どうして? なんにも見えねえ!!」
 一樹も覆面がずれているんだ。パニックになってる一樹は、覆面をしてることを忘れてしまってる。ボクは一樹に駆け寄り、新聞紙覆面を破ってあげる。
「逃げろ、一樹。やばいよ……」
「うわあああ……」
 一樹は、テレビで見た何とかトカゲのように手足をパタパタとしながら走り去って行った。

「こらあ、健!! はあ、はあ、はあ……」

 バスタオルを身体に巻いた姉ちゃんが、肩を怒らせボクの行く先に立っている。こんなに早く来るとは……。家の外だぞ、バスタオルだけ巻いて出て来るなんて……。相当息が上がってるから、全速力で来たんだろう。それとも怒りに息が上がってる?
「お前!! 美紀ちゃんと彩ちゃんの裸、覗こうとしてたんだろ! このスケベが!!」
 頭から湯気を立ち上らせながら……。お前だなんて……、怒ると途端に口が悪くなる姉ちゃん。その後に、美紀と彩ちゃんがボクに視線を送っている。美紀は呆れたように……、彩ちゃんは心配そうに……。

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