ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 水着とお尻と……2

「ママ! 水着間違えてる。スクール水着、持ってきて。今すぐ!!」
 職員室中に聞こえる大きな声で、彩ちゃんが受話器に向かって喋ってる。
『いいじゃない。そっちの方がカワイイから……』
 彩ちゃんのお母さんは呑気なことを言っている。
「ママ、持ってきてくれないと困る!」
『どうして? あの水着、かわいいじゃない』
「かわいくても駄目なの! スクール水着、持って来て!」
『ママね。これからお買い物なの。お気に入りのブランドのバーゲンなの。かわいい水着で、水泳の授業がんばってね。じゃあ行ってくるね。バイバイ』
「ちょっとママ! ママったらあ!!」
 切れた電話に呼びかける彩ちゃん。見かねた先生が、白い水着でも良いと許可を出した。

 そうして生理の始まった彩ちゃんは水泳の授業を見学することになり、水着を忘れた美紀は彩ちゃんに水着を借りることになった。しかし、彩ちゃんの水着は、学校指定のものではなく白いカワイイ水着。お母さんが間違えて入れたものだ。そんなこと、ボクらは知らないまま水泳の授業は始まろうとしていた。



 裸になって着替えるとき、男子間でも発見はあった。去年までは、何事もなく普通に着替えてたのに、今年は腰にタオルを巻いて着替えようとしてるヤツがいる。
「なに気取ってんだ。タオルなんか巻いちゃって……」
「やめろよ」
 腰のタオルをしっかり握り、取られまいと逃げるクラスメート。追いかける実。
「取っちゃえ、取っちゃえ!」
 囃し立てる他のヤツ。もちろんボクもその中に居る。遂に実が、そいつのタオルを毟り取った。
「こいつ、毛が生えてるぞ!!」
 実の大きな声が更衣室に響く。
「や、やめろよ。タオル、返してくれよ……」
 タオルを持って逃げる実を追いかけるクラスメート。しかし、誰一人助けようとはしない。
「どれどれどれっ……」
 みんな、そいつの股間を覗き込む。
「恥ずかしがることないじゃん。大人になったんだから……。見せろよ」
 手で必死に隠そうとするそいつの手をみんなが剥がす。
「本当だ。生えてる生えてる」
 確かに少し影ができている。産毛より少し太くて長い毛でうっすらと出来た影。
「ひっ、ひどいよ。うっ、うっ……」
 目に涙が溜まって、今にも零れ落ちそうだ。
「大人になったな! めでたいめでたい!!」
 泣き出しそうな友人を励ますように言うと、実はタオルを返した。実、お前のせいだろ。自分でまとめやがって……。囃し立てたボクらのも、少しは責任があるけど。

 そしてボクは自分の股間を確認した。アイツより濃いかな? あそこの毛……。
「オレも生えてるぞ。ほら!」
 冷やかされる前にボクは、股間をみんなに晒した。うっすらと生えてる毛を……。隠すより、みんなに見つけられるより早く、自分から公表したほうがいいんだ、こういうことは……。こうすれば、からかわれなくて済む。からかわれる前に、自分から公表するのが生活の知恵だ。姉ちゃんとの喧嘩で学んだボクなりの成果だ。母ちゃんに叱られて学んだ知恵だ。0点のテストだって自分から公表すれば……。これは叱られるかな? でも隠すよりマシだと思う、きっと……。

「俺だって生えてら、ほら!」
「俺のほうがすごいぞ。どうだ!!」
 負けず嫌いの武彦や実が股間を突き出す。男子更衣室は、股間の見せ合い、毛の生え具合の品評会と化した。今まで何事もなかったように堂々としてた生えてないヤツの方が、かえって恥ずかしそうにしてる。これでタオルを剥ぎ取られたアイツも落ち込むことなく自信を持てるだろう。

 先生が来るまでの間、プールサイドでもボクらはふざけていた。一樹は水着を思いっきり引き上げ、ハイレグのようにしている。そして、ベルトの部分を巻いていき、まるでビキニのパンツのようにした。
「うっふん、どう? わたしのビキニ」
 手で胸を隠し、まるで手ブラのグラビアのようなポーズをとる。ボクらは、それを面白がって囃し立てる。
「ケツ振って! こっち向いて!!」
「イヤーーン、そんなに見つめちゃあ……」
 みんなの要望に応えながら、半分食み出たお尻をクネクネと振りながらみんなの前を歩いている。
「手、外してえ! オッパイ、見せてえ!」
「ヒュー、ヒュー……」
 男って本当に馬鹿だ。これだけでこんなに楽しめるんだ。今年初めてのプール。否が応でもテンションが上がってる。
 女子達は、ボクらのふざけているのを冷たい視線で、バカにしながら見ている。
「男子ってバカね」
「本当、子供なんだから……」
 そう言いながらも、ボクらを見て笑っている。

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