ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 夏祭り3

「いたいた! 探したぞ」
「人が多くて大変。彩ちゃん、美紀もいたぞ」
 武彦たちが集まってきた。彩ちゃんも一緒だ。いかにも探していた風に言ってるが、それほど真剣に探していたとも思えない。なぜならみんな、何かしら手に持っている。水風船のヨーヨーだったり、リンゴ飴だったりアメリカンドックだったり……。
「美紀、ヘンな格好!」
「脚、丸出しかよ。それじゃ、いつもと変わらないじゃないか」
 さすがボクの親友達だ、褒めることはしない。美紀はプイッと顔を背ける。
「彩ちゃん」
 美紀も彩ちゃんに気付き声を掛ける。
「美紀ちゃん、その浴衣、可愛い。誰に着せてもらったの?」
 彩ちゃんには、美紀の太腿丸出しの着方が新鮮らしい。それも可愛く思えるらしい。そこは、男と女の感じ方の違いなんだろう。
「彩ちゃんのも可愛い。似合ってる」
 美紀は彩ちゃんのピンクの浴衣を見て褒める。

 女って、何でも可愛いって言えばいいと思ってる? 確かに彩ちゃんのピンクの浴衣姿も可愛いけど……。

 姫りんごのリンゴ飴を持っている実と一樹。二人は、リンゴ飴を二個くっ付けた。
「キンタ○!」
 大声で叫ぶ。これをやりたくて買ったんだ、二人は……。満面の笑顔がそれを物語ってる。
 リンゴ飴が二個並べた真ん中に、亮太が手に持ったアメリカンドッグを立てた。
「チ○ポ!!」
 ここまで考えて買っていたか? こいつ等は……。ボク等は爆笑したが、美紀と彩ちゃん、周りの人たちは引いていた。
「もう、こんなヤツラほっといて、金魚すくい、しよっ」
 美紀は、彩ちゃんを金魚すくいに誘った。



 彩ちゃんと並んで金魚すくいをする美紀。その後で、クラスメートを見つけては、リンゴ飴とアメリカンドッグで『キンタ○!』、『チ○ポ!!』を連呼している実、一樹と亮太。よっぽどこのフレーズが気に入ってるみたいだ。

「キャッ! 逃げる!! こっち! 逃げないで!!」
「ダメッ!! あっ! キャッ! やだっ!!」
 美紀と彩ちゃんの黄色い悲鳴が響き渡っている。それにしても二人は金魚すくいが下手だ。

 美紀と彩ちゃんの必死の声に、『キンタ○!』、『チ○ポ!!』を連呼していたみんなも今は、二人の応援に廻っている。
「ほら、その金魚!」
「今だ! すくえ!!」
「こっちの金魚!」
 みんなの声に、ペースを乱され益々混乱する美紀と彩ちゃん。どれをすくって良いのか、どのタイミングですくえば良いのか、うろうろとホイを動かすだけだ。みんなが応援している横でボクは、捲り上げられた裾から出ている美紀の太腿に目を奪われている。金魚を掬うことに一生懸命で、周りのことが見えていない美紀は、ボクの視線なんかに気付きもしない。
「美紀! 袖が濡れてるぞ」
「あっ!」
 金魚を追うことに必死で、袖が水に漬かったことに気付かないでいたみたいだ。
「似合いもしないのに浴衣なんか着るからだ」
 ついいつもの癖で厭味を言ってしまう。ヤバッ、怒るぞ、美紀……。
「いいもん、すぐ乾くもん。暑いから……」
 美紀が怒ってこなかった……。これも浴衣の魔力?

「ダメダメ!! 後から追っかけちゃ逃げられちゃうよ!」
「ほら! その小さいやつ!! 前から狙え!!」
 みんなの応援に、せわしなくホイを動かす二人。それが裏目に出てしまった。
「いやん、破けちゃったあ……」
「まだ大丈夫だ。半分残ってる。いけ!」
 ボクらは、ホイが少々破れても気にしない。美紀たちの背中を突きすくう様に急かす。背中を押され、前のめりになった美紀のホイが水面を叩いた。
「あああ、全部破けちゃった」
「まだまだ大丈夫。ほら、端っこが少し残ってる!!」
 ホイには紙が1/10ほどしか残っていない。でも残っていることには変わりない。もうすくえる筈の無いホイでも、ボクらには関係ない。本当に良いのかな? と気にしながら、ボクらの応援に金魚を追う美紀。女の子だと、金魚すくいのおじさんも大目に見てくれてる。

 追っているうちに、美紀もまた本気になってきた。
「逃げちゃダメ! そっち行ったら……」
 ほとんど紙の破れたホイで金魚を水槽の端に追い込んでいく美紀。

 美紀、お前、浴衣の裾、捲くってるんだぞ。夢中になりすぎだよ、そんなに膝動かしたら、夜店のおじさんにパンツ見えちゃうぞ。
「美紀! 代われ、オレがすくってやる!!」
 ボクは、美紀に金魚すくいを止めさせる為にホイを奪い取った。
「兄ちゃん、もうだめだよ! まだやりたいなら、新しいホイ買ってくれないと」
 ボクがホイを美紀から奪い取った時には、紙は全部破けてしまっていた。

 威勢良く交代したボクだったが、その威勢が災いして新しく買ったホイもあっという間に破れてしまった。

「兄ちゃん、残念だったね。ほい、これ! 彼女たちにあげな」
 そう言って、金魚すくいのおじさんはビニールの袋に小さな金魚を二匹づつ入れて手渡してくれた。彼女じゃないって! 美紀は美紀だし、彩ちゃんは彩ちゃんなんだ……。

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