ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 夏祭り4

「花火、やろうぜ! 打ち上げ花火!」
「神社の裏に置いて来てるんだ。隠して」
 亮太と一樹が用意してるらしい。神社って言うのは、少し離れているが山手にあるのでカブトムシを獲りに行ったり、山探検をする時のベース基地になってる場所だ。公園で花火をすると、すぐ怒られるがあそこなら少々の音でも大丈夫だ。
「美紀、いくだろ? 彩ちゃんもやろうよ」
 武彦が、二人を誘う。
「ええー、打ち上げ花火? 怖いよ」
 彩ちゃんは、少し迷ってる。美紀は、姉ちゃんがいなくなったからボクと行動を共にするしかない。
「線香花火もあるからさ、行こ行こう」
 亮太の誘いに、ボクの顔をチラッと見る。彩ちゃんの顔には、迷いが浮かんでいる。
「やっぱりダメえ。パパとママが待ってるから……」
 彩ちゃんは、残念そうに言った。少し離れたある一点を見詰めて……。

 彩ちゃんの見ていた所には、やけにアツアツのカップル夫婦がいる。彩ちゃんのパパとママだ。彩ちゃんのママは、浴衣にウチワ、髪をアップに纏めパパさんに優しい笑顔を向けている。パパも、ママの腰に手を廻しぴったりとくっつき楽しそうに話をしている。美紀には目の毒だな、離婚しておかあさんの居ない美紀には……。
「美紀! 行こうぜ」
 ボクは美紀の手を、彩ちゃんのパパとママが居る方とは反対に引っ張った。
「おい、健! 逆だぞ」
「いいんだ。こっちから行った方が人が少ないし……、コンビニの駐車場抜けて行った方が早いし……」
「あの道、田んぼの方に行っちゃうぞ」
 亮太が違う違うと彩ちゃんのパパとママが居る方を指差す。
「田んぼの畦を抜ければ近道なんだ」
 ボクは怒ったように言い、美紀の手を引き進んだ。
「ちょっと待てよーー」
 どんどん進んでいくボクの後を、みんなも仕方なく追ってきた。

 コンビニの駐車場を抜け、裏の道を真っ直ぐに山手に上っていく。そして田んぼまで来た。真っ暗で畦道さえ判らない。
「健、無理だよ。見えないし、畦道……細いし……」
 美紀は不安そうにボクの顔を見る。
「無理だな。昼間なら確かに早いけど……」
 武彦は、ボクのメンツを保ちながらも冷静に言った。
 結局、ボクたちは田んぼの畦道を行くのを諦め、大きな道、最初行くはずだった道の方に行くことになった。

「健がヘンなこと言うから回り道になったじゃないか」
「そうだよ。結局、この道になったんだから」
 亮太と実、一樹は、いまだに文句を言っている。
「昼間なら絶対に早いんだから。近道には違いないんだから……」
 どんなことを言っても言い訳には違いない。そんなことは判ってる、ボクだって……。
「神社、昔はあそこで夏祭りやってたんだって」
「ホントかよ。またデタラメ言ってんじゃねえの?」
 でも、話はすぐ変わる。
「デタラメじゃないよ!」
 一樹と亮太が言い合ってる。
「本当らしいよ。親父達が言ってた、境内で盆踊りしたって」
 実の話で決着はついた。ボクの父ちゃんと母ちゃんも言ってた。美紀のお父さんと三人で、夏祭りは神社の境内でよく遊んだと……。

「おい、あれ、健のお姉ちゃんじゃないか?」
 実が前を指差し言う。暗くてよく見えないが、高校生らしいカップルが前を歩いてる。喋りながら肩をポンと叩いたりイチャイチャしていて、時折笑い声が聞こえてくる。確かに女性の方の衣装……、浴衣は確かに姉ちゃんのものだ。
「本当だ」
「男と一緒だぞ」
「しーー! 後つけようぜ。……デートだな、あれはきっと……」
 武彦は身を屈めてみんなに言う。後つけるって……、この道はどっちにしろ神社まで真っ直ぐ繋がってるわけで、とりあえず行く先は同じ方向なんだ。しかし、醒めてるのはボクと美紀だけな訳で、他のみんなは大乗り気だ。
「了解! 隊長」
 亮太は武彦に向かって敬礼してる。
「見失うなよ」
 見失うって……、一本道で見失うかよ。それにこれは何なんだ? 戦争ごっこか? 隊長だの、敬礼だの……。

「キスするかな? どうぞ」
「するか? どうぞ」
「Hするかな? どうぞ」
「するわけねえだろ!! どうぞ」
 ボクらは、姉ちゃん達に聞こえないようヒソヒソ話する。みんな、何か喋るのに、手を口の前に持っていき無線を操作するような動作をしながら喋る。すぐ隣にいるのに、そんな必要ないだろ? 美紀はそんなボクらを呆れ顔で見ている、手に金魚の入ったビニール袋をぶら下げて……。
「でも、こんな人目の無いところ……。普通はデートコースに選ばないだろ、どうぞ」
 確かにそうだ。この道は、真っ直ぐ神社の境内に向かっている。途中、デートするような遊び場はない。ボクも少し思っていた、姉ちゃん、Hする為にこんな人目の無いところをデートに選んだのかなと……。あれが姉ちゃんの言う友達なのか? 友達と待ち合わせしてるって言った時点でおかしいと思っていたけど……。女友達の時には、ちゃんと名前で言うから……。

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