ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 暑さ対策は水遊び1

「暑い! ううーー、暑い! 暑い!!」
 これがボクらの口癖になった。梅雨が明けた途端、猛暑になった。野球をするのも、サッカーをするのも躊躇される。『遊ぼうぜ』という号令で、ボクら5人は集まった。なぜか、美紀と彩ちゃんもいる。理由は簡単なんだけど……、美紀は、昼間はボクの家にいるからお目付け役で付いて来る。美紀が付いて来ると、彩ちゃんも付いて来る。なぜか彩ちゃんは最近、ボクの家に来ることが多い。まあ、美紀と彩ちゃんは親友だからだろう。美紀が昼間、ボクの家にいるから彩ちゃんもボクの家に来るんだろう。それにしても、暑い。何をするのも躊躇される暑さだ。

 集まった後、何処に行くでもなく歩きながら、何をしようか話し合っている。
「何して遊ぶ? 日の当たらない所で、面白いところないかな?」
 一樹は、道の端っこ、日陰になったところだけを探しながら歩いている。
「プール!?」
 何か閃いたように一樹が叫んだ。
「今日は低学年の日!」
 ボクは一樹に漫才の突っ込みよろしく言った。
「じゃあ、洗たく場へ行こうよ」

 洗たく場って言うのは、大川の川原にある石組みの土手だ。川を横切るように石を組んでいる所があり、そこはダムみたいに水が1mくらい溜まっていて格好の水遊び場になっている。田んぼに水を引く為にあるらしいが、今はもっと上流から水を引いている。なんでも明治時代からあるって聞いたことがる。昔はそこで、本当に洗濯もしていたらしい。

「あそこは遊んじゃダメって言われてるでしょ」
 美紀がもっともなことを言う。実際は、男子であそこで遊んでいないヤツなんていない。父ちゃんの子供の頃、男子はみんな、そこで泳ぎを覚えたそうだ。
「やっぱりプールだな。俺等だけなら入れてくれないかな? 特別に……」
 亮太は甘いこと考えてる。いつものことだ。世の中、そんなに甘くはない。ボクらだけ特別なんてありえない。特別があるとしたら、それは悪いことだ。みんなと同じことをしても、ボクらがそれに関わっていたら、怒られるのはボクらだ。ほかのヤツらが始めたことでも、怒られるのはボクらだ。ただ、ちょっとやりすぎるのがボクらの悪いところなんだけど。特別があるとしたらそんなことだけだ。

「学校のプールなんて、スク水ばかりだろ。色気も何もないからつまんないよ。それより、市民プールに行かないか?」
 武彦が何か思い出したように言った。
「市民プールだって、ガキばっかで面白くないだろ」
 ボクは悲観的だ。こう暑いと、何をするにも楽天的に考えることが出来ない。それに市民プールまでって言ったら、自転車で45分も掛かるぞ。近道で行っても30分は掛かる。この暑い中、30分も……。
「何言ってんだ。今は不景気だろ? 海外旅行より安くて涼める市民プール。OLの間じゃ、常識らしいぞ。市民プールはOLでいっぱいだって……」
 武彦は自信満々に言い張る。きっとテレビのニュースか何かで見たんだ。ボクも見た記憶が薄っすらとある。でも、こんな田舎の市民プールでも一緒かな? きっと都会の話だと思うんだけど……。

 ボクの疑問をよそに、みんなは盛り上がっている。
「OLって言ったら、ビキニかな?」
「そりゃそうだろ。ビキニ、それも三角ビキニで決まりだろ」
「巨乳の三角ビキニ? パンツなんかもこんなに小さいやつかな? Tバックだったりして。ヘヘへ……」
 一樹がHに笑いながら親指と人差し指で作った隙間で、「コマネチ」の格好をして見せる。
「そんなに小さかったら、胸の谷間もお尻も見放題だね」
「ああ、胸の谷間もお尻の谷間も見放題だぞ!」
 そんなに美味しい話、あるかな? どうも胡散臭い。でも、みんなの楽しそうな姿を見ていると、ボクも心が動く。なんかありそうな気もしてくる。いや、そうあって欲しいって気持ちが湧いてくる。

「ビキニ、ビキニ、ビキニ……」
 亮太と実と一樹の大合唱が通りに響き渡る。ビキニと言う魅力的な響きに、彩ちゃんや美紀が一緒だと言うことも忘れてる。希望に燃えるボクらには、恥ずかしさも近所迷惑もない。最初、胡散臭いと思っていたボクも、合唱隊の一員に入っていた。

「男って、本当にバカね。彩ちゃんもそう思うでしょっ?」
 後から美紀の呆れた声が聞こえてくる。そうだ、忘れてた。ボクらの後ろを美紀と彩ちゃんが付いて来てるんだった。
「うっ、うん……」
 彩ちゃんは、自分に振られたことに困ったように相槌を打つ。
「あんた達、Hなことしか考えてないのね。本当にバカよね」
 美紀は、男のロマンを判っていない。胸の谷間もお尻の谷間も好きな訳ではない。山男が、『そこに山があるから登る』って言ったのと同じ心境なんだ。そこにビキニがあれば見に行く。それは男のロマンなんだ。それをHと言うなら、ボクらは甘んじて受け止めよう。なぜならボクらは男なんだ。男はロマンを追い求める為に生きているんだ。

「彩ちゃんも来るだろ?」
 ボクは彩ちゃんを誘った。これ以上、美紀にHだと非難されるのを逃れる為に話題を変えたかった。それに、彩ちゃんが行くと言えば美紀も行くしかないだろう。美紀が行かないって言ったら、母ちゃんが行くことを許してくれるとは思わない。美紀は一人残ったとしても宿題をすると言うだろう。そうなれば母ちゃんは、「美紀ちゃんはしっかりしてるわね。それに比べて健は……。あんたも宿題をしなさい!!」って、絶対プールに行くことを許してくれないだろう。ここは絶対、彩ちゃんをプールに行かせなければいけない。
「男子は、水着を見たいだけなんだよ」
 美紀の言葉に彩ちゃんは、少し困ったように考えている。
「美紀ちゃん、行こう?」
「え!? 彩ちゃん、こんなヤツらと一緒に、泳ぎたいの?」
 こんなヤツらってなんだ! クラスメートだぞ。仲間は大切にしなくちゃいけないんだぞ。
「う、うん。……行っても良いかなって……。暑いし……、夏休みだし……、美紀ちゃんに泳ぎ、教えて欲しいし……」
 彩ちゃんは美紀に気を使いながらも、行きたいって感じが溢れている。美紀に泳ぎを教えて欲しいって、絶対嘘だ。美紀ほど速くは泳げないけど、彩ちゃんも十分上手だ。幼稚園の頃からスイミングスクールに通ってたって、みんな知ってるんだから。

 美紀は最後まで反対したが、彩ちゃんが行きたいって言って、みんなで行くことになった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊