ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 暑さ対策は水遊び3

 ボクらもいつまでも落ち込んでばかり入られない。ボクらにとって夏は貴重なんだ。することがいっぱいあるんだ。永くはないんだ。
「よし! 泳ぐぞ!!」
 彩ちゃんの一言で、ボクらの元気は回復した。気持ちの切り替えが早いのもボクらの良いところなんだ。
「泳ごうぜ。そーれっ!!」
「よっしゃ!」
 ドボンッ!! ドボン、ドボンッ!!
 ボクらは一斉にプールに飛び込んだ。何か後の方から女性の叫び声が聞こえたような気もするけど……。

「こらあああーーー!!! 飛び込んじゃダメでしょう! 飛び込み禁止ですよ!!」
 ボクら以外の人はみんな聞こえたらしい、女性監視員の叫び声が……。

 プールの淵を見ると、飛び込みに遅れた、いやっ! 飛び込むことの出来ないお腹に浮き輪を巻いた亮太が女性監視員に捕まっている。両腰に拳を当て、仁王立ちして亮太に何か言っている。亮太は、ぺこぺこと頭を下げている。女性監視員は時々、ボクらのほうを指差し何か亮太に言っている。ボクらは、女性監視員が亮太から離れ、監視台に登ったのを確認し、亮太のところへ泳いでいった。

「亮太、何だって?」
「飛び込むなって。飛び込み禁止だってさ。今度、飛び込みしたら泳がせないって怒られた」
 怒られたはずの亮太が、なぜか笑顔だ。顔が緩んでいる。
「どうしたんだ? 怒られただけじゃないだろ」
「ふふふ……。すげー美人だった。あのお姉さん……。大学生かな? 胸も大きくて、顔もすげー美人。ただ恐かったけどな」
 ボクらは、その監視員に視線を向けた。監視台の上で競泳水着に麦藁帽子、そしてサングラスを掛けプールに鋭い視線を向けている。サングラス越しだから、本当に鋭い視線かどうかは判らないが……。多分、鋭い視線だろう。そして亮太の言うとおり胸も大きそうだ。
「本当か? サングラスしてるから美人かどうかなんて判らねえぞ? サングラス外したら、目なんかこんなに小さかったりして……」
 こんなことを言いながらも、ボクらはその女性監視員に興味深々だ。ビキニも良いけど、競泳水着もそそられる。
 そんなボクらの胸の内が読めたのか、美紀が呆れた顔でボクらを見てる。
「本当に大人しくしてよ。私たちまで恥ずかしいじゃない。ねえ、彩ちゃん」
 美紀は彩ちゃんに同意を求めるが、彩ちゃんは相変わらず優しく微笑んで、「うっ、うん……」と軽く答えるだけだった。

 ボクらも暫くは大人しく泳いだ。しかし、単に泳ぐだけじゃ詰まらない。これじゃあ、学校のプールと同じだ。いやっ、学校のプールの方が仲間が多くて楽しい。学校のプールじゃ、ボクら以上に悪いヤツも沢山いて? 先生の目もボクらに届かない。飛び込むなって怒られた事も、とうに昔のことになっている。

「宝探し、しようぜ」
 だれかれなしに言い始めた。宝探しっていっても、単に水に沈む物を投げて、みんなが一斉に潜って一番に見つけて持って帰って来たものが勝ちって言う単純なものだ。大概は十円玉を投げることが多い。
「亮太、十円玉持ってるか? お前投げる役な」
「ええーーー、俺も探す方がいいよ」
「お前、潜れないだろ。それの浮き輪してるし」
「う、うん……」
 いつも投げる役の亮太は不満そうだが、それも仕方ない。だって、亮太は浮き輪無しじゃ泳げないし、浮き輪をしてたら潜ることも出来ないから……。

「いくぞ! いいか?」
 十円玉を持って振りかぶった亮太がボクらに声を掛ける。ボクらはプールの淵に立って投げられる十円玉の行方を追う準備に取り掛かる。だって、上のほうから見たほうが十円玉の行方を見極めやすいし、飛び込んで一気に潜った方が早く宝の十円玉に辿り着けるから……。さっき怒られた事も忘れ、ボクらはプールに飛び込む準備をしている。そして賽(さい)は投げられた。
 ポチャン。
 小さな水音と共に十円玉がプールの底に沈んでいく。

 ドボーーン、ドボン、ドボン、ドボーーーン。

 ボクらも一斉に、大きな水音を立てプールに飛び込んだ。

「こらあああーーー!!」
 プール中に響き渡る怒声も、水の中に居るボクらには届かない。ボクらは、飛び込むと一気に水底まで潜って十円玉を目指す。

「獲ったどーーー!!」
 水の中なので声は聞こえないが、確かにそう叫んでいる気がする。実に先を越された。一瞬早く、ボクと一樹の目の前で実の手が十円玉に到達した。運動音痴の武彦は、まだ水面をウロチョロしている。
(ちきしょう、やられた……)
 プールの底まで潜っっていた一樹とボクは、一気に水面へと上がっていった。でも、水底の十円玉しか気にしていなかったボクと一樹は、水面を泳いでいる人がいることは気付かないでいた。もう少しで水面という時に、頭に何か柔らかいものが当たった。

「ギャーーーー!!!」
 プール中に響き渡るおばさんのドスの利いた悲鳴。一樹の頭はおばさんの股間を直撃、ボクの頭はおばさんの脂肪たっぷりのオッパイを直撃していた。

 ……

 サングラスを外し、ボクらを睨みつける女性監視員。プールに居るみんなに聞こえるくらいの大声で怒っている。おばさんの悲鳴が、この監視員の怒りを二倍にも三倍にも大きくしたみたいだ。
「あなた達、飛び込みはダメって言ったでしょ。何度言ったら判るの?」
「まだ二度目です」
 実が要らないことを言う。これでまた、このお姉さんの眉毛が吊り上っていく。
「二度も注意されたら判るでしょ! 今度やったら摘み出すからね! 判った!?」
(うわあ、亮太の言ったとおり美人だ。胸も大きい……。これでヒステリーじゃなければな……)
 ボクはそっちの方が気になり、怒っている声も耳には入っていない。
「そこの子、聞いてんの!?」
 監視員がボクを睨みつけ言う。
「あっ、はっ、はい……」
 ボクは曖昧な返事で誤魔化した。

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