ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 暑さ対策は水遊び4

「あの監視員、まだ俺たちのこと見てるぜ。これじゃあ、何も出来ないな……。つまんねえ……」
 ここはプールだから、泳げば良いだけなんだけど。
「あの監視員に何か仕返しできないかな? 怒ってばかりでつまんないよな」
 一樹は怒られたことを完全に逆恨みしてる。一度怒られてるんだから、気を付ければ良かったんだけど……、ボクたちにそんなことは、楽しいことを諦める理由にはならない。

「ねえ、どうして泳がないのよ。泳ぎに来たんじゃないの?」
 美紀は、ボクらの目的が泳ぎではないことを知っていながら、厭味なことを言う。
「飛び込んじゃダメって、何して楽しめばいいんだよ。ただ泳ぐだけで……」
「飛び込みが水泳の醍醐味だよな。それを取り上げられたら、水泳なんて、ただ疲れるだけだよ」
「ねえ、みんな、泳ごうよ。泳ぐだけでも楽しいよ」
 彩ちゃんは優しく誘ってくれる。
「ううん……」
 彩ちゃんへの返事にも力が篭らない。

 落ち込んでいたボクら勇気付ける出来事が起こった。ボクらが夢見ていたビキニの女性が突然現れたんだ、それも二人。麦藁帽子にサングラス、大きく突き出した胸にそれを包む二枚の三角の布地、キュッと括れた腰に柔らかそうなお腹とどこまでも深そうなおヘソの窪み、両サイドを結んだパンツ、そしてすらりと長い脚。ボクらが描く理想のOLビキニが、更衣室に続くトンネルの暗闇から、燦燦と真夏の日差しに照らされたボクらの目の前に現れた。身体を隠してる布地なんて、ボクらのハンカチ一枚より少なそうなビキニのOLが……。

 ビーチバッグを下げ、時折日差しの強さを確認するように、サングラス越しに空を見上げている。踵の高い流行のサンダルを履いて、脚を交差するようにすっ、すっと前に運んでボクらの方に歩いてくる。まるでグアムのビーチでの光景のように……って、グアムには、行った事はないけれど。
(キ、キタアアアーーー!!)
 ボクらは、心の中で歓喜の声を上げた。
 亮太は、慌てて準備してたサングラスを掛けている。
 無理だって! 亮太がサングラスを掛けても変なおじさんにしか見えないって! ナンパなんて……。本気でナンパしようって思ってるのかな? 亮太は……。そんなこと思っているボクに考える暇もなく亮太は、二人の女性のところに歩いていった。

「お嬢さん、お暇ですか? 私たちと一緒に……」
 亮太はカッコつけてサングラスを外しながら、低い声で大人を演出しながら声を掛けた。
「何してんの? 亮太君」
 !?
 亮太が話し終わる前に、女の人から名前を呼ばれた亮太は、目が点になっている。それはボクらも一緒だが……。ボクが目が点になった訳はみんなと少し違う。聞き覚えがある声……?

 ビキニの女の人がおもむろにサングラスを外す。

 ゲッ!!! やっぱり姉ちゃんだ!!

「ねえ、知ってる子?」
 姉ちゃんと一緒に来たもう一人のビキニが、姉ちゃんに問いかける。
「うん、うちの弟の同級生。……ってことは、健も居るわね、どこかに……」
 ゲッ、見つかっちゃう。顔を伏せたが遅かった。姉ちゃんがこっちを向いて手を振ってる。
「美紀ちゃーーん、ケーーーン」
「お姉さーーーん!!」
 ボクの後ろで美紀は、笑顔で手を振り替えしてる。美紀のヤツ、余計なことしやがって……。美紀が手を振らなくても、姉ちゃんにはバレタだろうけど……。

 別に見つかって悪いことはないんだが、遊び難くなる。恐い女性監視員に悪魔のような姉ちゃん……。両手に花じゃなく、なんか諺があったな? 前に寅、後のライオン? ちょっと違うが、そんな感じだ。
「前門の虎、後門の狼ね。これで健も少しは大人しくするでしょ」
 美紀は、ボクの表情を呼んだのか偶然なのか、ボクの言いたかったことを見事当てた。それもボクに言うんじゃなくて、独り言のように、ボクに聞こえるように言うのが厭味だ。

「みんな来てたんだ」
「はい、暑いのでみんなで泳ごうって」
 姉ちゃんが聞くと、美紀はそう答えた。一応、美紀もボクらに気を使ってくれたのかな? OLのビキニが目的だって言わなかったのは……。それとも、恥ずかしくて本当のことは言えなかっただけ? ボクらのアホらしさが……。

 ボク以外のヤツラの目は、姉ちゃん達に釘付けになってしまっている。大人の水着姿に……。OLではなかったけど、高校生の姉ちゃんだって、ボクらからすれば十分大人なんだ。

「そちらの方は?」
 武彦も急に丁寧な話し方になっている。さっきまであんなに落ち込んでいたのに。ボクの姉ちゃんでも、ビキニ姿の女性が現れたことで武彦のメンツも保たれたってことか?
「クラスメートの沙希ちゃんよ」
「お姉さん、相変わらずスタイルいいですね。胸なんかも、また大きくなりました?」
 実は直球で姉ちゃんを褒めている。
「そうでしょっ! クラスの巨乳ツートップなんだから……って、何言わせんのよ、このエロガキ!」
 エロガキって言いながらも、少しいい気になっている。水着に包まれた胸を突き出して微笑んでいる。やっぱり女は、褒められると嬉しいんだ、ボクらみたいな子供にでも……。それとも、ボクらが子供だと思って、気を許してる? 嫌らしい話にも、大人の余裕を見せるように乗って来れてる? 半分冗談、でも半分は本当らしい。

「それにしても……、子供とオバサンばかりね」
「そうね、ガキばっかね。イケメンがいっぱいって聞いてたのに……」
 ゲッ、姉ちゃんたちもかよ。ガキで悪かったな。イケメンもOLのビキニ姿もいねえよ、こんな田舎の市民プールに……。沙希っていう姉ちゃんの友達も、姉ちゃん同様に世間知らずだな。んっ? ボク達と一緒? でもボク達はまだ、小学生だから……。

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