ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 暑さ対策は水遊び5

 そうこうしてる間に姉ちゃん達は、レジャーシートを敷き、その上に腰を落としビーチバッグから何かボトルを取り出した。どうもサンオイルみたいだ。
「サンオイル、塗りましょうか?」
 最初にそれがサンオイルだと気付いた一樹が揉み手をしながら訊ねる。
「そうね、塗ってもらおうかしら」
 姉ちゃんはボトルを翳し一樹に微笑み返す。
「何言ってんだ。プールじゃ、サンオイルは禁止だろ」
 ボクは言ってやった。冗談はやめろって。
「えっ!? そうなの?」
 サンオイルを手に持った姉ちゃんが驚いた顔で言う。
「本当にサンオイル塗る気だったのか? ここはビーチじゃねえだぞ。市民プールだぞ」
「本当に?」
 姉ちゃんたちも天然だ。姉ちゃんは美紀に確認を獲るように聞く。ボクが言ったことを未だに信じられないみたいだ。
「うん、本当です」
 冷静に頷く美紀を見て、姉ちゃんはやっと信じたみたいだ。
「そうなの? ざ、ん、ね、ん……」
 ボトルをビーチバッグに名残惜しそうに仕舞った。

「お姉さん、何か飲み物、買って来ましょうか?」
 サンオイルを塗るチャンスを失った亮太は、すかさず姉ちゃんの機嫌取りをする。
「そうね、じゃあお願いしようかしら」
 姉ちゃんがそういうと亮太は、ポケットの中のお金を確かめている。姉ちゃん達に奢るくらい金持ってんのか? 亮太っ……。
「お金は私が払うわ。奢ってあげるから好きなもの買ってらっしゃい。健は何が良いの?」
 さすがに小学生に奢らすようなことは出来ないと、姉ちゃんはお金を亮太に渡しながら言う。
「いらねえよ」
「いらねえとはどういうことだ。こういう時は年上のお姉さんに甘えるもんだぞ」
 姉ちゃんの機嫌取りの亮太がボクに食って掛かる。
「そうよね。可愛くない弟でしょ」
 姉ちゃんは味方が出来て嬉しそうだ。それが小学生でも……。
「そうですよね。こんな素敵なお姉さんがいて、ボクら、羨ましい限りなのに……」
 コイツら、完全に舞い上がっている。姉ちゃんとその友達のビキニに、巨乳に……。知らねえのか? 悪魔みたいな姉ちゃんなんだぞ。

(面白くない。なんで姉ちゃんが居るんだよ、ボクらの娯楽の場に……)
 ボクは体育座りで膝を抱えブツブツ文句を言っていた。
「ねえ、健くん。私たちは泳ぎましょ」
 他の四人が楽しそうに姉ちゃん達と話してるのと対照的に詰まらなそうに見てるボクに美紀と彩ちゃんが手を引っ張る。
「おう、泳ぐぞ!!」
 ボクは大きな声で答えて立ち上がった。こう言うのをカラ元気って言うのかな? 姉ちゃん達に着きっきりの四人を残し、ボクと美紀と彩ちゃんはプールに入った。

 プールの外では、相変わらずビキニ姿の姉ちゃん達に四人がオベンチャラを言っている。
「ビーチボール、あるよ」
「お姉さん、やろう?」
 プールサイドでは、ビーチバレーが始まっている。キャッキャッと言いながら、高校生のビキニ姉ちゃん達と小学生四人のガキが遊んでいる。変な光景だ。

 最初は普通にキャッキャッとバレーをしていた。しかしあの四人がいつまでも普通にしてるはずはない。
 姉ちゃんの友達の沙希さんが上からゆっくり落ちてくるボールをトスしようとした時だ。すかさず一樹が沙希さんがトスをしようと構えた両手の間に入った。
「オッパイトーーース!!」
 一樹は沙希さんがトスを上げるのと同時にオッパイを下から思いっきりトスした。

 ブルンブルン……。

「ギャーーー!!!!」
 悲鳴と共に、トスしたボールはあらぬ方向に……。そのボールを追いかける実。ボールは姉ちゃんの方に飛んでいく。悲鳴を聞きながらも飛んできたボールに、反射的にレシーブの体勢を取る姉ちゃん。
「オケツレシーーーブ!!」
 姉ちゃんがボールをレシーブするのと同時だった。実の上を向いた両方の掌が姉ちゃんのオケツをペロンと撫ぜ上げた。
「ギャーーーーーー!!!!」
 沙希さんの悲鳴に続き、姉ちゃんの空気を引き裂く悲鳴がプールに響き渡った。そして、女監視員の目がキラリと光る。

「このスケベエェェェ!! エロガキ!!」
 人目を気にしない姉ちゃんの怒声。
「わざとじゃありません。偶然です! たまたま手が当たっただけです!!」
 オッパイとかオシリとか言ってる時点でわざとだろ。偶然なんてありえないだろ。
 姉ちゃん達と四人のおっかけっこが始まった。

 四人のガキは逃げ場を失ってプールに飛び込む。それを追って姉ちゃんたちも……。
 ドボーン、ドボンドボーン、ドボーン、ドボンドボーン。
 六人が大騒ぎして、そしてプールに飛び込んだことに監視員のお姉さんがまた切れた。

 プールサイドに立たされた六人。それを仁王立ちで怒る女監視員。大人しく泳いでいて良かったあーーー。ボクと美紀、彩ちゃんはプールに浸かって怒られてるみんなを眺めていた。
「またあなた達なの!! 何度怒られたら判るの!?」
 まず四人の子供が怒られている。
「それに大人のあなた達まで一緒に騒いで……!!」
「えっ!? 私たちも?」
 姉ちゃんとその友達は、私たちは被害者よ!って言いたげに不満顔だ。
「そう、大人が見本にならなくてどうするのよ。そうでしょ……」
 姉ちゃん達に文句を言ってる監視員。監視員の目が姉ちゃん達に向いてるのを良いことに、そーと監視員の後ろに廻った一樹がガニ股で腰を深く落とし、手を合わせ拝むような格好をしている。合わせた両手の人差し指と中指を立て、立てた指は女性監視員のお尻を狙っている。ヤバイ! 一樹はやる気だ!! 怒られたことを一回目からずっと根に持っていた一樹が……。

「カンチョーーー!!」

 ボクの心配は的中した。監視員に一樹が逆恨みの一撃をやってしまった。

 ギッ!? ギャアアアアアアーーー!!!

 獣のような、人の声とは到底思えない悲鳴がプールに響き渡った。
 そしてボクらは、プールから追い出された。

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