ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 暑さ対策は水遊び6

「指がここまでめり込んだぞ」
「あのお姉ちゃん、1mくらい飛び上がったな。いい気味だ」
 それはないだろ。確かにびっくりして少しは飛び上がったけど。それに指がそんなにめり込むはずがない。だって、水着越しなんだから……。
「おれ達ばっか、目の敵にして怒るから」
 まあ、ボクらだけが怒られてたのは本当だけど、飛び込むなって言ってるのに飛び込んだボクらが悪いんだけど……。

 姉ちゃん達は姉ちゃん達で文句を言っている。姉ちゃん達は姉ちゃん達で怒っている。ただし監視員に対してではない。
「どうしてくれるのよ、私たちのバカンスを……。この日の為にビキニの水着、買ったのに!」
 文句を言った後の鋭い視線は、ボクらに向けられている。全てはボクらが悪いと言いたげだ。
「私たちまで、とばっちりよ。プールへの出入り禁止なんて!!」
 何言ってやがる。どうせ男にもてようと買ったくせに、プールには目当ての男は居なかったんだから、どうせビキニも無駄だったから一緒だろ! って口には出さないけど……。

 ボクらは、ぶつぶつ言う姉ちゃん達を無視して次の遊びの話をしていた。
「明日は洗たく場、行こうぜ! あそこなら飛び込んでも怒られないぜ!!」
「おうーー!!!」
「じゃあ、十時集合な!」
 こいつら、何があってもめげねえヤツラだな。そこが唯一の取り柄なんだけど、ボクと一緒で……。
 ボクは美紀を窺った。でも、どうしてこんなに美紀の意向を気にしなくちゃいけないんだ? 母さんでも、彼女でもないのに……。
「仕方ないわね。あなたたちと人の集まる所へ行ったら、騒ぎを起こすだけだもんね」
 今回はダメと言わなかった。どうせ言っても無駄だと思ったんだろう。それに今日のこともあるし、人が集まるところでボクらを遊ばすのは危険だと思ったに違いない。それに、洗たく場での水遊びは禁止はされてはいるが、そんなもの守ってるヤツいない。怒られたって聞いたこともない。横断歩道を手を挙げて渡りましょうって言うのと同じだ。手を挙げて渡ってる大人なんて見たことない。大人達だって、子供の頃はあそこで泳いでいたんだから……。



 ここが洗濯場って呼ばれる謂れの、幅が2mはある堤防の上、川の上を流れてくる風が気持ち良い。堤防の上のボクらに、真夏の太陽の光は降り注ぐけど、それを忘れさせるほど爽やかな風が水泳パンツだけのボクらの肌を撫でていく。でも、気持ち良いだけではない。武彦たちが姉ちゃんのサンオイル塗りを手伝わされている。武彦と実がサンオイル塗りを、亮太と一樹がビーチパラソル代わりのこうもり傘を持たされている。

 ボクらがここに来た時には、なぜか姉ちゃんたちも洗濯場に来ていて、ビキニ姿の仁王立ちでボクらを迎えてくれた。そして姉ちゃん達のバカンスごっこに付き合わされている。ボクはプールでビーチバレーごっこには参加していなかったことが幸いして、バカンスごっこを免除されている。
「あんた達のせいでプール、出入り禁止になったんだからね、私たちまで……。ちゃんと塗りなさいよ」
 昨日の腹癒せをボクらに向けている。

 堤防にレジャーシートを敷き、その上に座って顎でみんなを扱き使っている。
「Hなところ触ったら、ただじゃおかないからね」
「ふふふ、判るよね。スケベなあなた達なら!」
「はっ、はいっ! 間違って触ってしまったら、どうなるんですか? お姉さま」
 武彦はボクの姉ちゃんに猫撫で声で訊ねる。それも『お姉さま』ってきたもんだ。
「殺す!」
「ひいっ……」
 姉ちゃんの普段家族以外には見せることのない鋭い視線に悲鳴を上げる。さっきまでの猫撫で声が嘘のように一瞬、顔を強張らせる。それでも嬉しそうだ。武彦達には、恐さより大人のビキニの魅力の方が勝っている。

「ほらっ、手っ! 手に塗って」
 鋭い視線とビキニの魅力で手懐けた子供たちを、姉ちゃん達は良いように扱き使っている。
「背中、次は背中よ」
「前も塗りましょうか? ほらっ、胸とか……」
「ふふふっ、あんた! 死にたいのか?」
 不敵な笑いと共に姉ちゃんが言い放つ。
「いえっ、冗談です。まだ、生きていたいです」
「判ったらよろしい」
 本当に嬉しそうにオイルの塗られた手を姉ちゃん達の肌の上に這わせてる。
「おっと、ヤバイッ」
「どうしたの?」
「いえっ、何でもありません」
 姉ちゃんが不思議そうに尋ねるが、背中にオイルを塗ってる実は、平静を装いながらも水泳パンツをもぞもぞと動かしている。あはーー、位置を直してるな。平静を装ってもHなことを考えてることは明らかだ。水泳パンツの股間が膨らんでいる。

「海には行かないんですか?」
 亮太は海に行きたいのか、傘を持ったまま姉ちゃんの顔を覗きこみ訊ねる。海に行くなら一緒に連れて行って欲しいんだろう。やっぱりバカンスって言ったら海だよな……。
「どうやって行けって言うのよ。海に行くには、車で行っても二時間は掛かるのよ」
 姉ちゃんも本当は海に行きたいんだろう。ちょっと切れ気味に答える。そしてその後、ポツリと付け加える。
「車を持ってる彼氏もいないし……」
 車を持ってる彼氏じゃなく、彼氏自身が居ないんだろ、姉ちゃん達……。心で思っても口には出さない、ボクだってまだ死にたくはない。

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