ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 暑さ対策は水遊び8

「陣取りしようぜ」
 ただ泳いでるだけに飽きたクラスメートの竹下が提案してきた。
「おう、やろう、やろう」
 意外にみんな、乗り気だ。泳いでの陣取りはめちゃくちゃしんどいんだけど……。

 陣取りと言うのは、集団鬼ごっこのようなものだ。2チームに別れ、お互いに自分達の陣地を決める。陣地を後から離れた方が相手を捕まえることが出来る。捕まった者は相手の陣地に繋がれ、味方が助けに来るのを待つことになる。そういった遊びだ。運動場で、男子対女子でやると大いに盛り上がる。相手より先に陣地を離れなければ捕まることはない。でも、ボクらにそんな戦略を使う落ち着きはない。おっちょこちょいばかりだ。
「俺が囮になって女子たちをおびき寄せるから、みんな後は頼むぞ」
 そう言ってるうちに、男子は囮役ばかりになって男子チームが負ける。戦績は圧倒的に男子が悪い。
 それを水の中でやるのはかなり大変だ。泳いで逃げる、泳いで追いかける。体力的にかなりしんどい。でも、運動場でやってもボクらは全力で走り追いかけ逃げる。結局疲れるのは一緒だから、水の中だろうが運動所でやろうが一緒なのだ。大変なだけ面白いのだ。

「武彦達もやるだろ? 陣取り」
 ボクは姉ちゃん達に扱き使われてる武彦達に助け舟のつもりで誘った。武彦は姉ちゃんの顔色を窺っている。
「お姉さん達もどうです? やりませんか」
 姉ちゃんの顔を覗きこみ訊ねる。
「陣取り? どうしようかな……」
 声のトーンから言うと、姉ちゃんも満更でもないようだ。
「やりましょう!」
 武彦は、同意を得るように明るい声で言った。
「よっしゃあ、やるか。覚悟してなさい。小学校の時は、陣取りの理沙ちゃんって言われてたんだから」
「そうね、久しぶりよね、陣取りなんて」
 姉ちゃん達二人もやる気満々になっている。
「じゃあ、じゃんけんナ。女子は女子でチーム分け」
 話はトントン拍子に進んだ。

 ボクのチームには実、亮太、クラスメートの竹下、そして美紀、姉ちゃんの友達の沙希さん。相手チームは、武彦、一樹、クラスメートの斉藤、田中、彩ちゃん、そして姉ちゃんだ。

 お互い両岸の岩を陣地に決め陣取りがスタートした。
「よし、俺が囮になってあいつ等誘き寄せるから後は頼んだぞ」
 そう言って竹下が岩の上から川に飛び込み、
「おーーーい、捕まえれるものなら捕まえてみろよ」
 と、敵チームを挑発している。

 挑発に乗った姉ちゃんが相手陣地から、そーっと泳ぎだした。竹下に見つからないように竹下のいる方向とは違う方に。回り道をして後ろに廻る気だ。ボクらだってそんな単純な手には引っ掛からないぞ。竹下だって……。
 竹下は、背泳ぎをして見せたり水に潜ったりして相手を挑発する。姉ちゃんがだいぶ近づいてるぞ。そろそろこっちの陣地に逃げて、姉ちゃんを誘導しろよ。そう思って見ているところで、竹下が水に潜った。よしよし、次に水から上がるのはこっちの陣地に近づいたところで……。
「おいっ!! すげーでけー鮎がいたぞ。こんな!!」
 竹下が水から顔を出し、手を広げて大声でボクらに大きさを示している。バカ!! 捕まるぞ。姉ちゃんがすぐ傍まで来てるんだぞ。
「捕まえたああ」
 姉ちゃんに後からタッチされて、竹下は簡単に捕まってしまった。目の前に楽しそうなことがあると、気持ちがすぐそっちに行ってしまう。集中できないのが男子全員に言える欠点だな。


 勝負は一進一退で進んだ。浮き輪の亮太は捕まったままだ。何度助けに行っても、泳いで逃げる途中に捕まってしまう。

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