ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 自由研究1

「自由研究どうする?」
 ボクらは、ボクの家で打ち合わせをしていた。いつもの五人と美紀と彩ちゃん。夏休みも残すところ一週間となった。そろそろ宿題のことも考えないといけない時期になってしまった。ちょっと遊びすぎたかな。ほとんど何も手がついていない。
「他はできたのかよ」
 武彦も何もできていないようだ。
「他は何とかなるだろ。美紀に見せてもらうとか、彩ちゃんにお願いするとか……」
 ボクはちらっと美紀の方を見た。
「何考えてんの? 見せないわよ。自分たちでしなさいよ」
 美紀はプイッと横を向く。

「美紀はもう自由研究以外終わってんだろ? 彩ちゃんは?」
「終わるのは終わってるけど……、見せないわよ」
 美紀はボクらと目を合わせようとしない。
「私も自由研究以外終わってるけど……」
 彩ちゃんは、美紀を気にしながらも好感触。美紀さえ落とせば彩ちゃんは見せてくれそうだ。
「美紀ちゃん、彩ちゃん、お願い!!」
「「「「「お願い」」」」」
 美紀にいつもは呼び捨てなのに、ちゃんを付けてボクら五人は頭を下げた。畳にオデコが着くくらいに。必殺土下座攻撃だ。ボクらはいつだって男のメンツなんか捨てられる、時と場合によるけれど……。
「「「「「お願い、美紀様。お願い、彩ちゃん」」」」」
 ついには『様』を付けて額を畳に擦りつけた。
「美紀ちゃん、ねえ、ねえ、ねえ……」
 彩ちゃんは、ボクらの土下座にオロオロして美紀の肩をゆすっている。美紀に、見せてあげようよと圧力をかけてくれてる。
「判った、もう……、判ったから……」
 美紀もボクら五人と彩ちゃんの圧力に負けた。
「「「「「やったー、よし。これで自由研究だけだ」」」」」
 確か去年も同じような光景だったような……。

「みんな同じだったら先生にばれるから、美紀、彩ちゃんの宿題交互に写せよ」
「ところどころ、わざと間違えろよ。亮太、実、一樹は三問に一つな」
「俺と健は五問にひとつ間違えで……」
 悪知恵のきく武彦が仕切って話をまとめる。そして自由研究を何にするかを話し合った。

「美紀も自由研究はまだなんだろ?」
 ボクは、美紀がいい考えを持ってるかと思い聞いてみた。
「俺らに任せとけって健が言ったんじゃない。だから何も考えてないわよ」
「私も、一緒にしよって言われたから……」
 美紀も彩ちゃんも、自由研究だけは僕らに任せてたみたいだ。確かに、ボクらは自由研究は俺たちにいい考えがあるから任せておけと何度も言った。それは男としての見栄であったわけで、さして良い考えがあったわけではない。と言うか、全く考えてなかった。

「すげえのしようぜ、誰も思いつかないような」
 武彦は考えもなく大きなことを言う。夏休みはあと十日しかない。朝顔の観察とか、時間がかかるものは到底無理だ。宿題を写す期間もいるし……。ボクら男は、全く何もしていないんだから、写すだけでも二、三日は必要だ。
「土器探しに行かないか? ほら、山の向こう側で土器が出るって父ちゃん言ってたぞ」
 実が口を開いた。
「ああ、聞いたことがある。ため池の向こうだろ? 市役所のロビーに飾ってるやつ。あれって、そこで発掘されたんだよね」
 亮太もどきの存在は知ってるらしい。確かに市役所のロビーに土器がガラスケースの中に飾られているのを見たことがある。

 二人が言ってるのは、明治時代にできたため池の奥のことだ。谷間に少し広いところがあってその真ん中を川が流れている。そしてその川はため池に注いでいる。それ以前は、川伝いに行けたそうだが、ため池ができた後はため池の横の山を登ってその向こう側に行かなくてなならない。

「それ、昔のことだろ。今はもう出ないんじゃね」
 ボクは、自由研究はもっと簡単なことで済ませたかったから乗り気になれない。
「破片ぐらい出るだろ。破片でも十分自由研究のネタにはなるんじゃね」
 しかしみんなは、冒険気分もあってすっかりその気になっている。
「あそこ行くのって、山道を登らなくちゃいけねえぞ」
 ボクは、違う方向へともう一押ししてみた。
「そうそう、登山だね」
「登山!? やってみたい!」
 日頃冒険などしない彩ちゃんも、夏休み最後の冒険に興味津々になっている。

「昔の人って、どうしてあんな所に住んでたのかな? いつも山道使ってたら大変だよな」
 一樹はどうでもいいことに疑問を持つ。
「昔は池のところに道があったんだって。ため池ができて水没したんだって」
 武彦はどうでもいいことを知っている。
「昔っていつだよ」
「明治時代。あの池、明治時代にため池に作ったんだって。人造湖だって父ちゃんが言ってた」
 一樹の質問に武彦は知ってる知識をハイテンションで答える。
「へえ、そうなんだ」
「恐竜の化石も出るかな? ゴジラの骨とか……」
 実は突拍子もないことを言い出す。
「ゴジラ! ゴジラ!?」
 一樹の目が輝いた。
「ゴジラの化石なんてあるわけないじゃない。あれは映画の中だけのお話!」
 美紀も呆れている。
「ええーーー、残念!」
 とか言いながら少しは期待してるみたいだ。

 みんな、夏休み最後の冒険にワクワクしながら、自由研究の話は進んでいった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊