人妻の事情
非現実:作

■ 妻である私は7

ギシギシとダブルベッドが揺れる。
私はか細く鳴く。
ハァッハァッと、優しく動く夫の声。
シーツにお互いの下半身を隠しながらの、愛し合うもの同士の美しい行為。
その夜、私は愛する夫を求めた。
夫婦の夜の営み、それは至極普通な事である。
だけど私が求めない限り夫はなにもしない。
そして私もネットのHなサイトで満たされる事が多い為、新婚にもかかわらず夜の夫婦生活はあまりなかった。
今日の私は積極的だったと思う。
あの時の刺激を愛する人から受けたい、2度3度と夫を求め快楽への扉を叩いた。
私を愛してくれている夫は疲労しているにも関らず、私の求めに応えてくれた。
動き方も体位も変わらない、私の髪を優しく撫でながら夫は頑張ってくれた。
4度目の射精の後…… …… ……。
夫は「明日の仕事にひびく」と言ってそそくさと寝てしまった。
今は私の隣でスヤスヤと寝息を立てている。
1日で4度もしたのは今日が始めての事だ、さぞかし夫もお疲れな事だったろう……。
そして私も疲れた……。

暗い寝室で……愛する夫の寝息を聞きながら、私は満ち足りないモヤモヤで一睡も出来なかったのだった。
そしていつもの朝。
いつもの様に朝食を作り、夫のお弁当を作り、夫を見送りして、家事をこなした。
その日もいつもの朝だった。

その日の朝の私は、愛する夫を見送った時点で意を決していた。
隣で夫が眠っている間中、私はずっと考えていた。
頭の中で天使と悪魔がせめぎ合い、少しでも悪魔の囁きが優勢となると、その度に私は両親の呵責に悩まされた。
だけど私は女としても悦びという物を初めてしってしまった。
良心を語る天使に対して、私は何度も「言い訳」を繰り返した。
次第にそれは正当な事だと思えてきてしまった己が恐ろしかった。

勝者は私の欲望を持て余した悪魔……。

「今ならまだ間に合う」何度も最後の忠告を語る天子の言葉を振り切り、携帯電話を取った。
震える指が押した登録ナンバーは、田崎さんだった。
着信音は2回、直ぐに田崎さんの声が聞こえた。
その時の会話は2分足らずだったと思う。
そして私はアノ濃厚なメイクをして、例の淫乱な下着を着け、ブラウスにタイトスカートを身にして家を出たのであった。

そう……この時から、いつもの朝から夜までの時間が一転したのだった。



自ら田崎さんにアポを取った時は紛れもなくどうかしていた。
あれから数ヶ月が過ぎた。
借金の返済は思いの外早かった。
それもその筈、私は毎週のようにアポを取り続けて田崎さんから報酬料を貰い受けてたからだ。
一時は「今週は金の工面が出来ないから」と、田崎さんから断られる位。
代価となる身体の提供は恥ずかしかったものの、今では良い思い出。
だって……私の性癖を教えてくれたのだから。
誰にも言えない性癖、露出。
ぴーぴーぴー……。
洗濯機が終了しましたという合図。
丁度かけ終えた掃除機を片付けて、洗濯機から洗物を取り出す。
主婦として、洗濯機が回っている間にもう1つの家事を済ませるのはお手の物。
手早く、そして抜かり無くこなす。

「ふっぅ!」

しかし今日は暑い。
あの頃から2ヶ月が経ち…… ……昨日捲られたカレンダーは7月を現していた。
新しい月の初めに相応しく、梅雨のジメジメした気候は何処かへと吹き飛ばされたみたいに今日は快晴。
久々に洗濯物がよく乾きそうな予感だ。
ジワッと汗ばむくらいの陽気の中、ベランダで洗濯物を干し終えて、ようやく主婦の自由な時間が訪れる。

「今日はアイスにしても良い感じね」

と、独り言。
手際良くアイスコーヒーを作り、ソファーに座ってワイドショーを眺める。
別に見たい訳ではないのだが、ただ時間を持て余していた。
そんなワイドショーでは、興味も無いタレントと女芸人との不倫報道が流れている。
アイスコーヒーを飲み終えて暫し、私は初夏の陽気に誘われていつの間にか眠ってしまっていた。

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