人妻の事情
非現実:作

■ その時は妻であらず3

進む足取りは亀の如くゆっくりと……。
この恥ずかしさに早くも耐えられなくなった私としては走り去りたい心境。
だが、エナメル調の紫色したピンヒールがそれを拒む。
それどころか初めて履いたピンヒールの不安定さに、どうにか転ばずに進むのが精一杯。
歩く度、カッツンカッツンと無駄に響く足音が原因でない事は百も承知。
360度全周囲から視線を浴びているのは感覚で察知でき、男女問わず今の私は脚光を浴びている。
……それは決して良い意味ではなくて……。
だから私は顔を上げて歩く事が出来ない。

「理沙ちゃんがあまりにも奇麗過ぎるから皆見てるねぇ〜んふふふ」
「…… …… ……」
「もっと自信持って上向いてよぉ〜理沙ちゃん?」
「で、出来ませんよ……そんな事……」
「いやいやいやいやぁ似合ってるよぉコレぇ」
「ちょっ、ちょっと止めて下さい!」

店員さんがサービスしてくれた4段フリルのスカートの裾を持ち上げたのだった。
慌てて私は両手でスカートを押さえて、小声で制する。
股下10センチ未満の白いプリーツスカートの上に穿いた4段フリルのスカートは、黒の花の刺繍を施したただのレースなのだ。
辛うじてプリーツスカートよりは長いが、素足を剥き出しにして超ミニを着けているのはバレバレである。
短いの1枚よりはマシという程度だった。
(ぁあっ!?)
手を下にやると今度は上半身が気になる。
必死で田崎さんの手を振りほどいてから、慌てて私は両腕を胸の前で組んだ。

「つれないなぁ理沙ちゃんはぁ〜」
「つ、つれなくて…結構ですってば」
「でも……さ、せめてその手は退けたら?」
「こんなに人がいる前でそんな事!」

今、私はブラを着けずにたった1枚の布で上半身を守っているのだ。
華やかなオールピンクの上着は、若くて行動力のある子ならさぞお似合いな物なのだろうが私には行き過ぎた代物でしかない。
なんせ、お臍が見え隠れする様な丈の短い物を着たのも学生時代以来だ。
だけど問題は丈ではなく、その上にあった。
(お、落ち着かないわ……このスースーする感じ……)
ノースリーブはともかくとして……鎖骨と胸元ギリギリにも布が無いU型のカットソーは、30の私には大冒険とも云える。
しかも両肩から伸びるU型のカットソー部分は非常にゆったりとした造りとなっており、屈めば中は丸見えになるのだ。
(ぅう……これって……やっぱりインナーの上に着る物よ、ね?)
いくらなんでもこれ1枚で外出するものとは思えない程にアブナイものだった。
少しでも屈んでみようなら、たちまち他人の視線の餌食となりかねないのだ。
時折吹く強いビル風すら包む服を弄ぶ。
その度、私は混乱する。
短いスカートを守るか胸元を守るかで…… ……。

「……こんなの、見られたら……私っ」
「でぇも〜奥さん……そんな事をしたかった、んでしょぉ〜?」
「ぅっ」

隣に並ぶ田崎さんがニヤリと笑いながら言ったのだった。
(確かに私は、私が選んだ……だけど……)
新たなる快楽の道は険しかった。
(こんなにも……恥ずかしい事……だった、んだ……)
そう…… ……私は。
改めて思った。
(これは…… …… ……止められない程にキモチイイ……)
前を向けない程こんなにも恥ずかしくて、突き刺さる視線は絶えず痛くて、それが私は快感で……。
どうかしているの?。
微かに震える足はピンヒールのせいだけではなかった。
股下10センチ満たないスカートの中身は確かに疼いていた。
全身が視線で感じていた。
これが羞恥プレイだと知った。
(はっぁはぁはぁ……はぁっはぁぁぁぁ……す、すぅごい……!!?)
下を向きつつ口から、フェロモンたっぷりの吐息を漏らしている私。

「奥さん奥さんっ、んふっふっふっふ〜〜今夜は精の出る肉、買っちゃう?」
「っンぅ、はっぁはぁはぁ……た、田崎さん、奥さんは…はぁ、止めてぇ」
「昼下がりのこんな場所でねぇ〜愛する旦那に美味しい物を食べさせたいとねぇ。
清楚で美しい新妻がねぇ〜わざわざ隣町の大手デパートに足運んでねぇ〜〜。」
「ぁ…はっぁはぁはぁはぁ、や、やぁ……やめてぇ……」
「愛情たっぷりの肉をねぇ〜〜あ・ら・れ・も・な・い……姿でねぇ?」
「んンんんぅ…ぁはああ……酷いわぁ田崎さん……」
「事実だよねぇ〜〜奥さん?」

ジクジクする下半身。
確かに私はこんな格好で……感じていたのだった。

「ここからだよ理沙ちゃん〜デパートからが本番だ。
んひっひっひっひ、さぁぁ楽しいプレイの始まりだネェ?」

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