保健室の闇
〜女子生徒の告白〜
ドロップアウター:作

■ 3

「何してるの。早く脱いでパンツ一枚になりなさい」
「あの・・・」
 胸の動悸を抑えながら、私は言葉を絞り出しました。
「今、内科の診察をしてるんですよね?」
「ええ、そうよ」
「あの、尿検査ってしないんですか?」
 これは、最初に体育館に入った時からの疑問でした。尿検査は普通、最初に紙コップに尿を出し、それをスポイルのような容器で採取します。でもこの日は、来た時からずっと、紙コップさえ渡されていませんでした。
 先生は、首を横に振りました。
「いいえ。内科の診察と一緒に、この中でするのよ」
「でも・・・保健室の中にトイレってありましたか?」
 その時、先生は一瞬気味の悪い笑みを浮かべました。私は背筋が寒くなりました。
 それから、先生は気の毒そうな口調でこう言ったのです。
「今日はね、いつもの尿検査とは違って、お医者さんにオシッコを直接取ってもらうのよ。だから少し辛いかもしれないけど、我慢しようね」
 そう言って、先生は私に検査カードを渡すように促しました。私からカードを受け取ると、順番を待っていた三人に中に入るように言い、自分も部屋に引っ込みました。
 私はすっかり混乱していました。尿をどんなふうに採取されるのか、いろいろ思いを巡らせました。まさかアソコに紙コップをあてがわれてオシッコをさせられるとでも言うのでしょうか。そんなこと、考えるだけでも気が遠くなりそうです。

 この時の私の想像は、半分当たり、半分外れました。ただ、それで良かったのか、悪かったのか、それは今でも分かりません。

 三人が保健室に入ったことで、順番を待つのは私も含めて二人に減りました。もう一人の子が裸なのに、私がいつまでも服を着てはいられません。私はとうとう、覚悟を決めました。
 もう一度、シャツの裾に指をかけて、今度は思い切って上に引き上げました。ためらわずに頭から抜き取って、足下に放り投げました。続けてハーフパンツを脱いで、ブラジャーとパンツだけになりました。下着姿になった瞬間、それまで衣服に覆われていた素肌が一気に外気にさらされて、今まで以上の肌寒さを感じました。でも、これで終わりではありません。最後に、腕を背中に持っていきホックを外して、ワイヤーを肩から外すようにブラジャーを取りました。
 脱衣を終えると、私はそのまま床に座り込んで、脱いだ服を畳みました。ブラジャーはシャツの中に入れて丸め、畳んだハーフパンツの上に置きました。そうすれば少しは恥ずかしさも抑えきれるかなと思ったのですが、無駄な努力でした。
 やがて、少し離れたところから足音が聞こえて、それが段々近づいてきます。検査を受けに体育館から上がってきた女子生徒達だということが分かったのですが、私は「来ないで」と叫びそうになりました。
 その足音が近くまで来たので顔を上げると、その子は私のクラスメイトの冬美ちゃんでした。彼女は私の格好を見たせいか、不安そうな表情を浮かべていました。
「服脱がなきゃいけないの?」
 冬美ちゃんの問いかけに、私は黙ってうなずきました。すると、素直な彼女はその場で服を脱ぎ始めました。
 冬美ちゃんは私と同じ格好になると、私の側に座りました。教室ではいつも一緒におしゃべりをしているけれど、状況が状況なだけに、話をしようという気にはなれません。二人ともただ黙ったままで、この重苦しい時間を過ごしていました。

 そうして、三十分くらい時間が過ぎたでしょうか。順番待ちの生徒が六人に増え、私が裸でいることに慣れ始めた頃、保健室のドアが開き、検査を終えた女子生徒が三人出てきました。この時も、三人とも涙ぐんでいます。私はますます不安になりました。
 三人に続いて、川原先生が外に出てきました。
「平島絹代さん、水沢真智子さん、小川冬美さん、三人は中に入りなさい」
 先生は私達三人の名前を読み上げました。
 私は不安な気持ちを胸の中に抱きながら、重い腰を上げて、二人と一緒に保健室に入りました。

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