保健室の闇
〜女子生徒の告白〜
ドロップアウター:作

■ 4

 保健室に入ると、そこは異様な空気が漂っていました。
 手前に椅子が三つ並べ置かれていました。部屋の右隅の診察が行われているらしい一角は衝立が置かれ、さらにカーテンを引いて見えないようにしていました。
 川原先生は私達を椅子に座らせ「一人ずつ名前を呼ぶから、呼ばれた人は来てくださいね」と言って、まず平島さんの名前を呼びました。
 平島さんがカーテンの奥に入ると、川原先生も一緒に入り、カーテンを引きました。
 やがて、川原先生や平島さんとは違う女の人の声が聞こえて、診察をするのが女医さんだということが分かりました。私は少しほっとしました。女医さんなら、恥ずかしさが少しは和らぐと思ったのです。
 ところがしばらくして、私は冷水を浴びせられたような感覚にとらわれました。
「あっ・・・」
 カーテンの奥から、平島さんのうめくような声が聞こえてきたのです。
 平島さんと私は直接の知り合いではありません。でも、順番待ちの時はわりと平気そうだった彼女の様子が急変したことに驚きました。このことで、一気に緊張が高まりました。
 やがて、カーテンの奥から平島さんが出てきました。平島さんは泣いてはいませんでしたが、頬を真っ赤に染めて、とても辛そうな表情です。
「大丈夫?」
 いたたまれなくなって、私は思わず声をかけました。
 平島さんは少しだけ表情を緩め、こう言いました。
「うん、平気。でも、ちょっと辛いかも・・・」
 その時私は、平島さんが股間の方をさすっていることに気付きました。一体何をされたんだろうと、私は不安になりました。
 その時です。
「水沢真智子さん」
 川原先生の私を呼ぶ声が聞こえました。
 私は動悸を抑えるように胸を腕で覆いながら、カーテンの奥へ足を踏み入れました。

 私が中に入ると、そこには川原先生と同い年くらいの、四十歳くらいの女医さんがいました。女の人に診てもらうことを確認して、私はひとまずほっとしました。でも、やっぱり安心はできません。川原先生や平島さんの話から、検査が辛いものであることは間違いないからです。
 女医さんは、入り口と向かい合う位置に腰掛けていて、そのすぐ手前にもう一つ椅子が置かれていました。さらに左側には、衝立にくっつけるように、診察台のようなベッドが設置されていました。
 私は、とても重苦しい空気を感じ取っていました。衝立とカーテンで隔離された狭い空間に、女医さんと先生の三人でいるということに、言いようのない圧迫感を感じたのです。蛍光灯の白い明かりが、いつも以上に冷たく感じられました。
「そこに座りなさい」
 私が戸惑いながら立っていると、女医さんが私に指示を出しました。私は言われるがまま、女医さんの前の椅子に腰掛けました。恥ずかしいので、乳房は腕で隠したままでした。
 私が緊張で顔を強張らせていると、女医さんは妙なことを口にしました。
「その髪型、かわいいわね」
 私があっけに取られていると、女医さんはさらに話を続けました。
「ショートボブっていうのかしら。今時の子にしては素朴で初々しいわね。女子中学生らしくて素敵よ」
 そう言って、女医さんは笑うのです。
 自分の容姿をほめられるのは、女としてはうれしいことなのですが、状況が状況なだけに何と答えていいのか分からず、私はただはにかんでみせるのが精一杯でした。
「それじゃあ、まず簡単な診察をするわね。腕、下ろそうね」
 女医さんがそう言うと、川原先生が後ろから私の二の腕をつかんで、ゆっくりと左右に引き離しました。
 どんな場合もそうなのですが、胸を人前にさらすのは恥ずかしいものです。この時も例外ではなく、私は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じました。
 まず、女医さんは聴診器での診察を始めました。最初は前、次に背中と順に診ました。この時川原先生が、まるで私が胸を隠せないように腕を強く押さえつけているような感じがしたのですが、気にしないようにしました。
 聴診器での診察の後は、おなかを女医さんに直接触って診てもらいました。女医さんは、時折「どこか痛いところない?」とか、「胃腸の調子はどう?」とか聞いてきました。下腹部を触られた時、少しだけパンツを下げられた時は少しドキッとしたのですが、それ以外は普通の診察でした。ただその分、これからどんなことをされるんだろうという不安は、次第に強くなっていったのです。

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