母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 染み込んでいく官能1

 耕平は授業中、机の上の一点を見詰めていた。そこに何かがあるわけではない。意識は、他のところに跳んでいた。何か嫌な予感がしていた。それが何なのかは判らない。ただ、まさみののことが気になって落ち着かなかった。

 朝、登校時に正門をくぐったところで、珍しく龍一の姿を見た。朝から龍一が学校に顔を出すことは、めったに無い。
(今日はまさみ……、呼び出されないのか?)
 しかし、耕平は安心することは出来なかった。昨日、まさみから毎日犯されていたと聞かされている。
(放課後、まさみを呼び出す気かな……。何も起こらなければいいんだけど……)
 授業を受けていても気もそぞろで、教科書のどこをやってるのかさえ判らない。教師の喋る言葉は、頭の上を飛び越え遙か後方に流れ去る。
(私が我慢すれば、そのうち何とかなるって……。そのうち、龍一さんも私に飽きて手を出さなくなるって……、まさみにそんなこと言われても、それまで待てるかよ)
 耕平がまさみに、父親に相談しようと進めるとまさみは嫌がった。
(親父には知られたくないって言うし……、世間に知られたら俺とオヤジに迷惑が掛かるって……)
 そして、瞳に涙を浮かべ、泣き出しそうになる。まさみの涙を見たくない耕平はいつも途中で説得を止めてしまう。
(俺はどうすればいいんだ? 俺に何が出来るんだ?)
 耕平は無意識に、右手に持ったシャープペンのお尻でコツコツコツ……と机を叩いていた。
「武内! 何してんだ、授業に不満でもあるのか? うるさいぞ!」
「えっ!? す、すみません……」
 教師の指摘に謝りの返事をするが、それでも心配ばかりが募る。



 その頃、まさみはリビングのソファーに腰掛け俯いていた。先生と耕平を送り出すまでは、勤めて明るく振舞っていた。暗い顔は見せないように、何も不安の無い少女をを演じ、出かける二人を笑顔で見送った。しかし、一人になると不安がじわじわと攻め寄せて来る。どんどん感じやすくなっていく身体……、そのうち心まで侵食されるのではないかと……。いやっ、すでに侵食は始まっているのではないかと思ってしまう。昨日も、エクスタシーを感じる時、最後に浮かんできたのは龍一の顔であった。
(いやっ! 龍一さんのこと考えて感じるなんて……)
 まさみは、両手で顔を覆い、横に振った。

 その時、突然、電話が鳴った。
「ど、どうして? どこに居るの?」
 龍一のことを考えていた時に龍一から電話が掛かってきた偶然に、まさみは驚きを隠せなかった。
「裸で待ってろ。お前のオマ○コを急に味わいたくなった。これから行くから……」
 まさみに有無を言わせないような低い声、自分の女に指図するように言う。
「裸で待ってろ。全裸だぞ、いいな!」
 龍一は、念を押すように繰り返した。
「……」
 逆らっても逆らいきれないのは身に染みて知っている。今までも、逆らえば写真やビデオで脅かされ、先生や耕平に迷惑をかけることを思うと最後には屈してしまう。それに、感じさせられてしまう自分がいる。何度も感じさせられ、頭が真っ白になった。記憶さえ残さぬ絶頂を何度も迎えさせられている。龍一に犯されると思うと、官能の火が身体の奥深くでチロチロと燻り始める自分がいた。それでも最後の抵抗として無言でいた。まさみが返事を返さないことなど意に介さず、龍一は話を続けた。
「いやっ、エプロンだけ着けろ。裸エプロンってのも、男心をそそっていいもんだからな。いいな、全裸にエプロンだ!」
 それでも無言でいるまさみ。
「返事はっ! 返事はどうした!!」
 電話から龍一の怒り声が響く。
「はっ……、はい……」
 電話の向うの龍一の怒鳴り声に、まさみは身をビクッと震わせ返事をしてしまった。拒否することが許されないことを身に染みて教え込まれたまさみの身体が、条件反射のように反応した。

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