母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 明かされた秘密1

 父親と二人での夕食も終わり、耕平は自室のベッドの上でぼんやりと天井を見上げていた。まさみは、まだ帰ってきていない。ドラマの撮影ということではあるが……。
 ………
「今日は……?」
 耕平は、家を出る時、まさみに訊ねた。
「ん? 今日はロケだから、撮影……早く終わると思う……」
 ………
 まさみは、早く帰れるとは言わなかった。仕事が早く終わっても、家に早く帰れないことをまさみは暗に告げた。
(今日も龍一のところに寄ってくるのか……)
 耕平は、まさみの真意を測りかねていた。まだ親父を愛しているはずだ。しかし、龍一にも好意が芽生えているのでないか……。以前とは明らかに違っていた。じっと耐えていた頃とは違った態度……、以前は龍一に会うことに対してあからさまに示していた嫌悪感、それが感じられなくなった。それどころか、何か期待感のようなものをまさみが醸し出してる気がするのは、自分の誤解だろうか……。耕平の胸の中で、ザワザワと嫉妬にも似た胸騒ぎがしていた。



 深夜、まさみを龍一の家まで送ったマネージャーの田中は、小林龍彦とバーで酒を飲んでいた。
「最近はどうだい? 奈緒の様子は……」
「全然ッ! アイツ、抱かせてくれないんですよ。龍一さんに叱られるってっ!! ふんっ!」
 龍彦の問に田中は、不満げに鼻を鳴らした。
「そうか。俺にも抱かせないもんな。龍一……、本気で惚れたみたいだな」
「へえーーっ、小林さんにも抱かせないんですか。龍一君だけで、あの淫乱な身体が満足するんですかね?」
 田中は、皮肉を込めて言った。
(女にはあんなに酷いことするのに、息子には甘いもんだ。やっぱり親子なんだな、龍彦さんと龍一君は……)
 田中は、息子の為に自分が身を引いている龍彦を可笑しく思った。
「まあ、龍一も俺以上にタフだからな。二人、良いコンビだぜ、セックスの相性が……。逆に俺は抱く気が薄れてくるんだよ。親子くらいも歳が離れてる所為かな?」
「ぷっ、それはないでしょ!」
 田中は吹き出した。龍彦が、まさみと同じ歳の新人グラビアアイドルを抱いたのを知っている。まさみの方が胸も大きくスタイルも良い。それでも、ついさっきまで自慢げに話をしていた龍彦がいた。
「息子の女を抱く親はいないだろ。俺もそこまでは鬼畜じゃねえってことだ……」
 龍彦は、息子のために身を引いていることを認めた。

「あああ、女を抱きてえ。奈緒みたいな良い女を……」
 田中が、心の底の本音を呟く。奈緒を抱くことは龍彦親子が許さないだろう。それなら、奈緒と同じくらい良い女をと……。
「奈緒の母親はどうしてんだい? 奈緒を産んだ女だ。相当に良い女なんだろ?」
「ええ、良い女ですよ。奈緒も良いですが、熟し方がなんとも言えない色気を醸し出して……」
「へえーー、そんなにいい女なのかい?」
「ええ、オッパイなんか奈緒以上に大きくて熟して柔らかそうだし、お尻だって奈緒みたいな硬さは残してないですよ。圭子さん目当ての客で、店は持ってるみたいなもんですよ。そのくせ、身持ちが硬いって噂ですよ」
「店? 水商売してんのかい? 奈緒の母親……、圭子って言うのは……」
「ええ、小さなスナックをしてるんですけどね……。これっ、秘密ですよ。硬い母親で大変だったんですから、奈緒をスカウトした時も大反対で……」
 酒が入ってることもあり、田中は饒舌に喋った。
「芸能界を物凄く嫌ってて……、何か嫌な思い出でもあるのかな? 一般人の圭子さんには、芸能界なんて関係ないと思うんだけど……。母一人娘一人……、圭子さん、女手一つで奈緒を育てたんですよ。しっかりした、いい女ですよ」
「ほう、いい女が一人なのか……。持て余してないのかな? 奈緒と同じ血が流れてる身体を……」
 龍彦の言葉に、田中の目がきらっと輝いた。その手があったかと……。龍彦と田中は、言葉を交わすことなくお互いの考えてることを理解した。そして二人は、バーを後にした。



「圭子さん、今日はもうお仕舞いかい?」
 看板を仕舞おうとしている圭子に、田中は声を掛けた。
「あっ、田中さん。お久しぶり……」
 振り返った圭子が、いつも通りの柔らかい笑顔を田中に返した。清楚な顔立ちにアップに纏めた髪が大人の雰囲気を加味して、そこはかとない色気を漂わせている。白いエプロンの胸が高く盛り上がり、スカートの裾からは脂の載った太腿が覗いていた。まさみには無い柔らかさが、男の淫欲を刺激する。田中に罪悪感はなかった。まさみの身体を知った田中には、圭子を陵辱し身体を味わうという期待で占められていた。
「今日はお客さんを連れてきたんだ。少し飲ませてくれないかな」
「もう終わろうと思ってたから、食べる物、簡単なものしか作れないですが良いですか?」
 そう答え、圭子は田中を招き店の中に戻った。そして田中達も店に入っていく。
「何になさいます? ビール、それとも水割りがいいですか?」
 振り返り注文を聞こうとした圭子の目に、田中の後ろから姿を現した龍彦が映る。
「なかなか良い店じゃないか……」
(えっ!!)
 店の中を吟味してる男の顔……、圭子の顔が、みるみると強張っていく。
「看板を仕舞ったってことは、もう客は来ないってことか……。じゃあ好きに……し放題ってことか……」
 龍彦は、後ろ手でドアにロックを掛けながらニヤッと笑った。
「娘も旨かったが、母親も美味しそうな身体してるな」
 そして、圭子の身体を爪先から顔へと舐めるように視線を這わせた。
「!? ……まさみに……何かしたの? あなた! まさみに……何したの!?」
「女にすることって言ったら、決まってるでしょ。マ○コの締まりもいいし、尻の味も最高でしたよ、あんたの娘……」
 田中もだらしない笑顔で圭子の身体に視線を這わせる。
「今日はその親の味も確かめたくって来たんだ」
 龍一は、鋭い視線で圭子を射抜いた。

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