人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ それぞれの思い2

「ほんと、美香さんが来てから変わったね。朝だって早く起きるし……」
「そんなことねえよ。ただ、起こしてくれるだけさ」
「前だって、お母さんが起こしてたじゃない。でも全然起きないって困ってたわ」
 通学の途中も、兄妹喧嘩のような光景は続いている。沙希には、兄夫婦が戻って来てからの昇の変貌が気に入らない。寝坊した昇を起こすのが、沙希の日課になっていた。迎えに行くといつも寝ていて、昇のお母さんが沙希に起こすのを任せてくれていた。
「沙希ちゃん。昇、起こしてきて。歩きながら食べえるように、おにぎり作っておくから……」
 そう頼まれ、お母さんが朝食を準備している間に昇を起こすのだった。

 それが美香が来てからは、迎えに行くと昇は起きていた。
「もう起こしに来なくて良いから」
 そんなことまで昇に言われた。
「綺麗なお姉さんが出来ると、男って変わるんだね」
 皮肉を込めて沙希は言ったつもりだった。
「そうだな。美香さんって、本当に美人だよな。それに料理も旨いし」
「おばさんだって、料理上手だったじゃない」
「母さんの料理も不味くは無かったけど、やっぱ古いよな。義姉さんは、イタリアンや流行の料理……作ってくれるし、義姉さんの料理は見た目もお洒落で綺麗だし……」
 沙希の気持ちも判らずに、昇は美香を褒めちぎった。
「ねえ、今度の土曜日、買い物に付き合ってくれない?」
 沙希は昇が美香の話ばかりするのに嫌気が差し、話題を変える。
「土曜日はJリーグのテレビ見なくちゃいけないからダメ! レッズの試合の中継があるから!」
「じゃあ日曜日は?」
「日曜くらいゆっくり寝かせてくれよ」
「もういいっ!! 急ぐよ。遅刻しちゃうから!」
 二人の噛み合わない会話は、学校に着くまで続いた。

 沙希が脹れていると、校舎の方から男子生徒の声がする。
「昇!」
「武田!」
 遠くで昇を呼ぶ声がする。
「おう!」
 クラスメートの声に、昇は手を振って応えた。
「じゃあな、沙希っ」
 そういって男友達の待つ方へ駆けていった。

「おはよう」
「おはよう、沙希」
 沙希の女友達が駆け寄ってきた。
「今日も武田君と一緒に通学?」
「そうよ、武田君とはどうなってるの? 進展してる? 恋人なんでしょう」
 女友達は沙希を冷やかし、様子を伺うように顔を覗き込む。
「ちっ、違うよ! 幼馴染……、何回も言ってるじゃない、友達だよ、ただの……」
 口ではそう言ったものの、顔が熱を持ち頬が紅く染まる。
「それなら、そろそろ一人立ちしたら?」
 沙希の煮え切らない態度に、冷たい一言をかける。
「そうそう、沙希はもてるんだから。武田君がいなかったら、すぐに恋人出来るのに……」
「サッカー部のキャプテンからの誘い、どうしたの?」
「どうもこうも、ちゃんとお断りしたわ」
 沙希は世話焼きの友達に、ちょっと怒ったようにきっぱりと言う。
「断ったの? 勿体ない! 彼、かっこいいし頭だって結構良いのに……」
 沙希が振り返り見詰める先には、クラスメートと楽しそうに笑い合う昇の後姿が映っていた。

 沙希の視線など気付かず、昇は男友達とふざけあっていた。
「昇、今日も沙希と一緒かよ。沙希なら、お前の童貞、貰ってくれるんじゃないか?」
「恋人にしちゃえよ。沙希だったら十分じゃないか? 顔だって可愛いし、性格だって明るくて優しくて……」
「ヤダよ。胸無いし、色気も無いし……。やっぱり胸は、揺れるくらいなくちゃな!」
 親友達の羨む気持ちなど知らず、今朝の光景、義姉の揺れる胸を思い出しながら言い返した。幼馴染を褒められることは嬉しいことではあったが、昇にとっては沙希が身近にいることはあまりに自然で、女として見ることが出来なかった。
「贅沢なヤツだな。沙希の胸、結構形良いぜ。ちょうど掌に収まる大きさで、揉み心地良さそうじゃん」
「まあそうかもしれないけど、俺は大きくて柔らかいのが良いな」
「沙希のは堅そうじゃねえか? もっと大きくて柔らかいのが良いだろ」
 青春真っ盛りの少年達は、見たことのない胸の形や感触まで服の上から想像する妄想で会話が成立していく。
「お前にその気が無いなら、俺が奪っちゃうぞ」
「ああ、どうぞ。……俺から言っといてやろうか? お前が好きだって言ってたって?」
 人気の幼馴染がいるという優越感が気を大きくさせ、昇にこんなことまで言わせてしまう。どんなことがあっても、沙希がいなくなることなんて無いだろうという根拠の無い思いがあった。それほど沙希の存在は、昇にとって日常的で空気のような存在だった。

キーン、コーン、カーン、コーン

「さあ、行こうぜ」
「ああっ」
 生徒達は、予鈴のチャイムに急かされるように校舎に吸い込まれていく。

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