人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ 開かれる淫獄の扉2

「旦那さんは知ってるの? 美香の出演したAVのこと」
「し、知るわけ無いじゃないですか!」
「見せればいいのに、旦那に。きっと喜ぶよ。だって、凄い人気だったんだよ、あの作品……」
「知りません、人気だったなんて……。あんなこと……忘れたいのに……」
 美香は、忘れたい記憶を知っている男の出現に怯えた。初めてを奪われフェラチオを教えられ、アクメを教え込まれた相手が篠原なのだ。

「どう? 出る気は無いの?」
「…………」
 無視する美香に、篠原は話を続ける。
「今度もちゃんと約束は守るよ。この前のだって、ちゃんと顔にモザイク掛けて、誰だか判らない様にしてあげたじゃない。どう? 出る気、無い?」
「ありません!」
 美香は怒りを込めた視線を投げ掛け、きっぱりと断った。そんな美香を、篠原は余裕の表情で微笑んでいる。今の篠原にとって、AV出演なんてどうでも良かった。美香の身体こそが目的なのだ。

「モザイク無しのマスター、まだ残ってるんだ。僕は、こんな手は使いたくないんだけどな……、他のヤツまで僕と同じ考えとは限らないからなあ……」
 篠原は残念そうに宙を見上げ、ぼそぼそと独り言のように言う。
「!?」
「ほら、君の若かった頃の写真。今も若いけどね」
 篠原の差し出した数枚の写真には、六年前の美香がはっきりと写っていた。大きく開かされた股に男が腰を押し当て、亀裂に没した男根、胸を弄る無数の手、口を犯す血管の走った棹、それら全てにモザイクの掛かってない顔がはっきりと写っている。
「旦那さんが、それを見たら……。それとも街で配ろうか? 旦那さんの会社に送るのもいいかな? 男性社員は喜ぶだろうなあ……」
 脅すような強い口調ではなく、独り言のように呟く。
「ひ、卑怯者!」
 美香は、言葉を噛み殺すように篠原を睨み付けた。
「そんなに怖い顔してたら、皺が増えちゃうよ。折角の綺麗な顔が台無しだ」
 美香の怒りにも動揺することなく、篠原は笑顔を崩さなかった。



「昇! 一緒に帰ろ!」
 校門を出るところを沙希が声を掛けた。
「あっ、今日は水曜日か……」
 昇は、思い出したように言った。
「でも、何で水曜日は部活休みなんだ?」
「前にも言ったじゃあない。筋肉を休める為だって。筋肉を育てるには、休めることも重要なんだって。顧問の先生の持論なの」
「へえー。そんなもんかね」
「ただ先生が休みたいだけかも知んないけどね」
 昇と沙希は、どこから見ても恋人同士のように並んで帰り道を歩く。

「あれ? カフェに居るの、美香さんじゃない?」
 カフェの前を通りかかった時、沙希が美香がいることに気付いた。
「あっ、本当だ」
「私たちも寄っていこうか? 美香さんに奢ってもらえるかも、ふふふ……」
 篠原の存在は植え込みに隠れて見えなかった。沙希は昇の手を引き、カフェに入っていった。

「美香さーーーん!」
 室内からテラスに出て沙希が声を掛けた時、美香が一人でないことに気付いた。
「美香さん、お知り合い?」
 沙希は、若い男性と美香がいるところに出くわしたことに気まずさを感じ訊ねる。
「えっ? ええ……、大学時代の、先輩……」
 美香は、心の動揺を隠し答えた。紹介された篠原は、二人に向かって爽やかな笑顔で会釈した。爽やかな笑顔と真面目そうな見た目は、沙希の気まずさを取り払う。
「この可愛いお嬢さんは?」
「私、美香さんの近くに住んでる秋山沙希といいます。こっちは昇。美香さんの弟。私の幼馴染です」
 爽やかな笑顔と、美香の友達だという言葉に安心した沙希は、篠原の問にぺらぺらと答えた。
「へえー。美香に弟っていたんだ」
 篠原が知らなかったとばかりに昇を覗き込む。
(なんだ? こいつ! 姉さんを呼び捨てにするなんて……馴れ馴れしいなっ!!)
 昇は、篠原の親しげな態度が気に入らないのか、無愛想に頭を下げた。
「弟といっても義理ですけどね」
 昇の態度を謝るかのように、沙希は笑顔で説明した。
「ああ、旦那さんの弟さんなんだ。僕は、美香さんの大学時代のと、も、だ、ち! 篠原克明。よろしく」
 篠原は、昇が美香との関係を疑っているのを見抜き、友達というところを強調して昇に自己紹介した。そして伝票を手に、席を立った。
「じゃあ俺、失礼するね。また今度、連絡するよ」
 そう言うと、三人に笑顔で会釈し帰っていった。

「姉さん、顔色悪いよ。どうかしたの?」
 義姉の普段は見せない冴えない表情に、昇は心配そうに尋ねた。
「えっ? ええ、ちょっと……疲れたのかしら。大丈夫よ……」
 美香は、テーブルの下に隠した手に持っていた写真を二人に気付かれないように握り潰す。
「かっ、帰りましょっ……」
 美香は写真の存在を悟られないよう、そっとバッグの中に隠した。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊