人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ 開かれる淫獄の扉3

 篠原が現れてから、不安が日が続いた。夫と昇に不安を悟られないよう、気を使う日々を三日過ごした時、差出人不明の宅配便が届いた。
「誰からかしら?」
 送り主の判らない宅配便を怪訝に思いながらも、美香はリビングで梱包を解いた。中から出てきたのは、純白のキャミドレスだった。
「なに? これ……」
 手にとって見ると、それは生地が薄く、まるで娼婦が自分の身体をお客に値踏みしてもらう為に作られたようなドレスだった。伸縮性の生地は身体のラインをはっきりと見せ、丈の短い裾は脚を股間の付け根まで晒すだろう。
「誰? 誰が送ってきたの?」

 その時、電話が鳴った。着信に表示された番号は、美香の知らない相手だ。恐る恐る通話ボタンを押す。
『美香、僕からのプレゼント、届いた?』
 受話器から、挨拶も無しに篠原の声が響いてくる。
『美香、最近お洒落してないみたいだったから。似合うと思うよ』
 まるで恋人にプレゼントをした彼氏のように、篠原の声が美香の反応を伺う。
『Tシャツにジーンズなんて、その辺の主婦みたいな格好じゃあ、君のスタイルが泣くよ。自分を魅力的に見せなきゃ……。女は見られて美しくなるんだよ』
「くっ!!」
 一方的に喋り続ける篠原に怒りを覚え、美香は唇を噛み見えない相手に眉を吊り上げ睨みつけた。
『早速デートしようよ。その服を着てさ』
「するわけ無いでしょ!! こんなもの、送ってこないで! 電話もっ!!」
 美香は怒りの有りっ丈を込め、受話器に向かって怒鳴った。
『沙希ちゃんって言ったかな? 義弟さんの幼馴染……。可愛い子だったね』
 少し間をおいて、篠原が別の話題を振った。
「!?」
『学校でも評判なんじゃない? あれだけ可愛かったら……、AV界でも評判になるだろうなー』
 一瞬できた美香の心の隙間に、篠原の声が美香の怒りを押し退けるように忍び込んでくる。
「何を言ってるの!!」
『何をって……。君の方が良く知ってるでしょ? 僕がどんな男かって、ふふっ……』
 受話器から、篠原の含みを持った笑い声が聞こえる。
「止めて! あの子に手を出すのは……。そんなことしたら……」
 篠原の言葉は、美香に湧き上がった危惧を的確についていた。
『警察へ、なんて考えてない? そんなことしたら、君の映像が世界中に配信されることになるよ。それでも良いのかな? それの僕らは、まだ何もしてないわけだし、何かあってからじゃ遅いよね』
「…………」
(篠原に従うしかないの? どうしたら良いの?)
『近くまで車で来てるからさ。五分後には着くよ。それまでに着替えて待っててね』
 美香に考える暇を与えないとばかりに、篠原は美香に催促する。
『あっ、そうそう。下着は着けないでね。折角のドレスが、下着の線が出たら台無しだから……。Tバックなんて持ってないでしょ? ふふふ……』
 そう告げると篠原は、美香の返事も聞かずに電話を切った。

(パンツも穿くなってこと? ……)
 篠原の言ったことを考えながら、手にキャミドレスをじっと見る。
(こんなのを着たら……)
 考えただけでぞっとする。薄くタイトなドレスは、美香の身体のラインをありのままに晒すだろう。それだけではない、胸の形を、乳首の在り処まで知らしめるだろう。
 ドレスの丈を確認する為、身体に合わせてみる。短い裾は、脚を太腿まで見せる。少しでも屈めば、お尻の隆起を皆に見せつけてしまう。太腿の隙間から、膨らんだ柔肉さえ見えてしまうかもしれない。
「いやっ! ……」
 美香はこれを着て歩く自分を想像し、恥辱に染まった顔を横に振った。

 美香は、キャミドレスを床に落とし視線を落とした。視線の先に宅配の箱が目に入る。箱の底には、まだ何か入っていた。
(何かしら?)
 封筒を手に取り中身を確認する。中からは、数枚の写真が出てきた。先日見せられた、美香の痴態を写した写真……、それに増して新たな恥辱写真も追加されている。美香の過去を、いつでも夫に世間に知らしめる準備は出来ているという無言の脅しだ。
「うっ! 卑怯者……。どこまで卑劣なの……」
 美香は、篠原の執拗さに肩を震わせた。
「こんな写真……、見られたら……」
 俯き閉じた瞳を飾る睫毛が、ビリビリと震えた。

 篠原は五分ほどで来ると言っていた。
(電話を切ってから……どのくらい経ったかしら)
 考えても、落ち着かない精神状態では、気持ちの整理もできない。篠原の言っていた台詞が頭を巡る。
『義弟さんの幼馴染……。可愛い子だったね。あれだけ可愛かったら……、AV界でも評判になるだろうなー』
(……急がなくちゃ。沙希ちゃんまで巻き込むわけには行かないわ……)
 美香は篠原の言葉に急かされ、渋々篠原の送ってきたドレスを着る決心をした。

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