人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ 心の隙に忍び寄る魔手1

 玄関の脇を抜け道路に出た沙希の頬を、大粒の涙が伝う。驚きと失恋のショックから何を行うべきか見失っていた感情が、現場を離れたことで本来の機能を思い出したかのように溢れてきた。
(いいねえ、清純な美少女の流す涙……)
 篠原は、沙希を労わるように背中を摩りながら導いていく。
(美香の義弟クン、予想外のいい仕事してくれたね。また美香の強力な弱みを提供してくれて……。フフフ、それに……)
 目の前の少女の涙を、淫猥な笑みを隠して自分の車のところまで連れて行った。
「ううっ、ううっ、うっ、ううっ……」
 篠原の車の横まで来たところで、今まで押さえていた声が呻き声となって漏れた。必死で耐えていた感情が、堪えきれなくなってしまった。一度零れ出した感情は、もう抑え切れなかった。
「うっ、うううっ、ううう……」
 篠原は沙希の背中を優しく撫ぜ、慰める態を装いながら別のことを考えている。
(今回は、ちょっと違った攻め方をしてみるか、どうせ暇だし……。心ごと奪って、俺から離れられなくしてやる)
「こんな所で泣いてたら……、俺が泣かしてるみたいじゃない。とりあえず車に乗って! 中ならどんなに泣いても構わないから……」
 助手席側のドアを開け、沙希をシートに座るように導いた。一時も早くこの場を離れたい沙希は、篠原に勧められるまま助手席に身を忍び込ませた。

………
……


 沙希を慰めると言う名目に、郊外をドライブし、カラオケにと連れて廻った。時刻は夕方になり、今は落ち着いたバーに来ている。
「どう? だいぶ落ち着いた?」
「あっ、は……はい……」
 篠原の問いに、沙希は小さく頷いた。

 最初、何も喋らず泣き続ける沙希に、篠原は取り留めもない話をし続けた。俯き膝の上に置いた手を強く握り締め、ただその拳を涙で濡らすだけだった沙希も、時間が過ぎ、泣き疲れ、何とか篠原の問いに答えることが出来だした沙希だった。
「さあ、飲みなよ。美味しいよ、これっ。美味しいものを食べたり飲んだりすると、少し幸せになるからね」
 篠原は、沙希の前に置かれたドリンクを勧める。
(私のために、一日中付き合ってくれるなんて……)
 これも落ち込んでいる私を元気付けてくれる為にしてくれてるんだ……。

 二人で過ごした時間は、もう八時間ほどになる。知り合いと言うほどの深い付き合いのない自分のために、ここまでしてくれる篠原に少なからず好意を抱き始めていた。篠原の行為を断ることは出来ない。沙希は喉は渇いていなかったが、一口、口に含んだ。
「どう? 美味しいだろ?」
「美味しい……」
 フルーティーな香りと味に、沙希はもう一口飲む。フワーッとアルコールの匂いが鼻を擽る。
「えっ? これ……、お酒……?」
「初めてだった? それならゴメン。いまどきの高校生なら、もう飲んだことくらいあるかなって思って……」
 篠原は、済まなそうに装って言った。
「でも、嫌なことを忘れるにはお酒が一番だよ。そのカクテル、美味しいでしょっ?」
(嫌なこと……?)
 篠原の一言に、昇と美香の痴態が頭を過ぎる。忘れたいことなのに、鮮明に思い出される。この一杯が嫌な事を忘れさせてくれるなら……、ほのかに紅く染まった頬の沙希は、じっとグラスを見詰めた。
「嫌なら飲まなくて良いよ。ジュースも置いてあるし、この店……」
「いえっ……。頂きます……」
 沙希は篠原の言葉を遮り、グラスに口を着けた。未成年の自分が飲むことは悪いことだと判っているが、沙希は初めてのお酒を喉に流し込んだ。

「美香さんと弟君があんな関係だったなんて……、驚いたね」

「沙希君、弟君のこと、好きだったの?」

「好きだったんだね……。俺も美香さんには憧れていたんだけどな……」

 昇と美香、二人の話を篠原が口にするたび、沙希はグラスを口に運んだ。早く忘れたい、嫌な事なんか忘れたい、そんな思いでグラスを口に運ぶ。目はトロンとし、顔が朱に染まる。アルコールが喉を通るたび、酔いが沙希の嫌な感情を紛らわしていく。沙希には、篠原の勧めるカクテルが魔法の薬のように思えた。

 沙希が何杯目のカクテルを口に空にしたときだろう。もう、軽く片手を超えるグラスが空になっている。
「今日は、君の悲しみが消えるまで付き合うよ」
 そう篠原が言った時には、沙希の頬は真っ赤に染まり目は虚ろに宙を彷徨っていた。ウンっと返事を返す頭は、カクンッと折れた。

………
……


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