人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ 従わされる女達1

 日曜日、朝遅くに起きた昇がリビングに降りると、兄の翔一がソファーに腰掛け政治討論番組を見ていた。
「おはよう、兄さん。今日は出かけないの?」
「ああ……、お前は朝寝坊か?」
 昇の問いかけに、翔一はチラッと昇を見ただけで、すぐに視線をテレビに向けた。
「こんな番組が面白いの?」
「社会人になると、政治のことも判ってないと生きていけないぞ」
「そんなもんかね……」
「ああ、お前は何してんだ? 勉強はちゃんとしてるのか?」
「ああ、してるよ。赤点は取らないくらいにはね」
 テレビに視線を向けたままの翔一と昇の会話が続く。
(俺は無視かよ。そんなに出世が大事なのかよ。……姉さんを放って置く兄さんが悪いんだ。だから姉さんがあんな男と……、俺が姉さんと……、これからは俺が……)
 昇は昨日の出来事も兄の所為に、自分の正当性を信じ込もうとした。

 キッチンで洗い物をしている美香。二人の会話を聞いて、美香は針の筵に座らされている気分だ。昨日のことが、夫の翔一に知られないかと……。しかし昇は昨日のことを会話にはしていない。出来るはずはないと思っていても、不安は募るばかりだった。そんな美香に、昇は背後から近づいた。

「姉さん、何か食べるものない?」
 昇は美香に背後から声を掛ける。
「えっ!?」
「なに驚いてるの? 何か残り物、ない?」
「そっ、そうね……」
 動揺する美香を楽しむように、昇はいつも通りに話しかけた。
「ねえさん、あんまり気にしてると兄さんに気付かれちゃうよ」
 リビングの兄に聞こえないように、美香の耳元で囁く。そして、後から美香の腰のサイズを測るように、両手を添え触った。
「腰はこんなの細いのに……」
 美香の身体が緊張で強張る。昇は腰に添えた手を前に回し、背後から抱き締めるように美香の胸に宛がった。
「止めて! こんな場所で……。翔一さんがいるのよ」
 声を潜め、昇に抵抗するように美香は身を捩る。
「しーーー。兄さんに聞こえるよ。兄さんに気付かれたら、昨日のことも、AVのことも話さなくちゃいけなくなるよ、おれ……」
「ウッ!!」
 言葉を飲み込んだ美香に昇は、さらに囁き掛けた。
「それとも、兄さんのいない場所ならいいんだ」
 指を柔肉に強く食い込ませながら、隆起を揺さ振る。
「そういうことじゃないわ」
 この状況を夫に気付かれたらと危惧する美香。緊迫した状況に顔が青ざめる。
「でも、兄さんには知られたくないだろ? AVに出ていたこと……。それに、あの男とのことも……」
「うっ!! ……」
 美香は声を飲み込んだ。
「この身体が悪いんだ。卑猥なオッパイにお尻、それに……」
 胸に左手の指を食い込ませながら昇の右手が、胸から目的地に向かって下がっていく。

トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル……

 困惑する美香には好都合に電話が鳴った。
「チェッ、電話か……。じゃあ、また後でね」
 昇は美香を甚振るのを止め、名残惜しそうに自分の部屋に戻っていった。

「美香! 電話だぞ!」
 昇から逃れることに出来た安堵から、身体の力が抜けボーっとしていた美香に翔一の声が届く。
「はっ、はいっ!」
 美香は小走りに電話のところへ向かった。

 電話に出た美香の顔が見る見る青ざめる。テレビに顔を向けている翔一が、その変化に気付くはずもない。
「はい……、はい……、はい、判りました」
 美香は動揺を翔一に気付かれないよう冷静を装い、電話の相手に相槌を打つ。
「はい、失礼します」
 美香は、震える手で電話を切った。
「誰から電話だ?」
 電話を切った美香に、テレビに顔を向けたままの翔一が尋ねる。
「なんでもないわ。町内会の連絡ごと……」
 美香は、いつものように翔一に笑顔を向け答える。しかし翔一は、テレビに視線を向けたままだった。
「ちょっと出かけてくるわ。お買い物……、スーパーに……」
「ああ……」
 テレビを真剣に見ている翔一は、疑問も持たずに返事を返した。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊