人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ 嵌っていく女1

 朝、夫の翔一を送り出した後、美香はふうっと大きな溜息をついた。今この家には、自分と義弟の昇しかいない。もうすぐ昇が、登校のために起きてくる時間だ。義弟とどんな顔をすれば良いのだろう。あの日から、過ちを犯した日から、どんな態度で接すればいいのか判らない。そんな憂鬱な中、昇が起きてきた。

「兄さんはもう出かけたね」
 美香は朝食の片付けを装い、話しかけてきた昇に背を向けたまま頷いた。
「姉さん、昨夜は兄貴とやったの?」
 この問いには、美香は無視をし洗い物を続けた。
「やってないんだ。じゃあ溜まってるんじゃない? スケベな姉さんのことだから、もうやりたくて仕方ないんじゃない?」
 無視をした美香を嘲笑うように昇は話を続けた。卑猥な話を投げ掛け、美香を挑発する。
「それとのあの男がいるからいいのか? あの男とやってるんだろ」
 昇の挑発に美香は動揺し、顔を真っ赤にした。スーパーのトイレで犯されたことを、昇が知っているのではないかと思い……。
「そっ、そんなことありません!!」
 思わず振り返り大きな声で反論した。
「俺は溜まって仕方ないんだ。土日は兄さんが家にいて、出来なかっただろ?」
 昇は、美香の逃げ場を奪うように近づいた。
「朝勃ちしたチ○ポ、まだガチガチなんだ。一回抜いておかないと授業にも身が入らないよ」
 美香の弱みを握っている昇は、美香が言うことを聞くのは当然とばかりに言う。
「姉さん、いいだろ? 兄さんには気付かれないよ」
「ダメッ! 絶対!!」
 逃げ場のない美香は、それでも拒否する。
「何言ってんだよ。俺のチ○ポで感じてたじゃないか。好きなんだろ? チ○ポが……」
 もう一歩で、美香に手が届くところまで近づいていた昇は言い放った。
「イヤッ! それ以上近づかないで!! 近づいたら……、私……死ぬわ……」
 昇が最後の一歩を踏み出そうとした時、美香はシンクの上にあった包丁を手に取り自分の喉に当てた。

 グズグズと関係を持ち続ければ、昇を、そして家庭を傷つけてしまう。家庭を壊してしまうことだけはなんとしても阻止しなくてはならない。自分一人の犠牲で、何とか問題を解決したかった。篠原からも、義弟と関係を持つことに対して釘を刺されている。どこかで篠原が見ているかもしれない。どんな手を使って監視をしているか判らない。

 それに今日は、篠原が指定した日だ。篠原の知人との面会を言い渡されている。面会だけで済むとは思えない。朝から義弟と関係を持ったともしばれたら、篠原のことだからただでは済まないだろう。何も知らない夫や家族に災いが及ぶことだけは避けたかった。

「私たちは家族なの! これ以上……、ううっ、何かあったら、わたし、死ぬから、うううっ……」
 美香は包丁を握った手に力を込める。美香の声を詰まらせながらの強い口調と今にも瞳から零れ落ちそうに溜まった涙に、これは本気だと昇も怖気づいた。喉に当てられた包丁は、先端が皮膚を窪ませている。もう少しでも力を込められたら鋭い切っ先は皮膚を破り真紅の血液を滴らせるだろう。
「ちぇっ、判ったよ。今日はもう、学校行くよ」
 昇は、そういい残して朝食も摂らずに玄関に向かった。

「ふう……」
 美香は深く溜息をついた。とりあえず昇が美香の身体を諦め学校へ行ってくれた。美香の気持ちを理解してくれたかは判らないが……。しかし、今日これからのことを考えると、安堵している気にはなれない。お昼までに、篠原の指定した場所で誰とも判らない篠原の指定した人間と会わなければならないのだ。そのことを思うと美香に気の晴れる余裕は無かった。

………
……


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