人妻と少女の淫獄
木暮香瑠:作

■ 嵌っていく女2

 美香は、指定されたマンションのロビーにいた。美香はロビーの喫茶スペースのソファーに腰掛け、相手を待っていた。まるで高級ホテルのような広いロビー、流れる静かな音楽とコンシェルジュが常駐する様は、まるで映画かドラマの中の一場面のようだ。篠原が美香にフォーマルな服装をしてくるように言ったのが、ここにきて初めて判った。高級マンションにフォーマルな服装、これから逢う人間が普通の人間でないことを物語っていた。自分にはこんな豪華な場所は不釣合いだと思っているが、白のブラウスにベージュのスーツ、下はスーツとお揃いのベージュのタイトスカート、そんな美香の服装と容姿は、高級マンションのロビーにいても雰囲気に負けることなく輝いていた。

「やあ、美香さん」
 上質なスーツに身を包んだ男が、美香を見つけ声を掛けてくる。美香は立ち上がり、見せ掛けの礼儀として軽く頭を下げた。
「本当に来てくれるとは……、嬉しいですよ。佐々木といいます」
 笑顔で声を名前を名乗るが、その細い目は笑っていない。
「こない訳にはいかないんでしょ?」
「ふふふ、良く自分の立場をわきまえていらっしゃる。篠原君は優しそうな顔をして、やることはエグイですからね」
 美香を牽制するように篠原の名前を出す。篠原の言うことに逆らえないのを知っていることを匂わせるように……。
「さあ、いきましょう」
 美香の表情が強張るのを確認した佐々木は、美香をエレベーターの方に誘った。

「私はあなたのファンだったんですよ。三作品で引退するなんて残念でしたよ」
「引退して人妻になっていたなんてね。勿体ない話だ」
「偶然、バーであの男と知り合いになりましてね、篠原と……。篠原があのAVであなたの相手だったなんて……、世の中、狭いもんですよ」
 佐々木一人の声がエレベーターの中で響く。会話に答えたり恥ずかしがったり反応を示せばこの男を喜ばせるだけだ、美香は無視を決め込んでいた。
 二人を乗せたエレベーターは、音も無く最上階に着いた。

 案内された部屋は、30畳はあるリビングだった。
「ここは……?」
「私のセカンドハウス、趣味だけの為の部屋だよ。ふふふ……」
 そういって佐々木は、リビングに続く奥の部屋のドアを開ける。その部屋は、天井から鎖がぶら下がり、奥の棚には男根を模したバイブや責め具が並び、壁には縄やムチが掛けているのが見えた。
「イヤッ……!!」
 美香の口から思わず小さな悲鳴が漏れる。
「さあ、脱いで君の全てを見せてください。君の柔らかい肌に、縄が似合うと思いますよ、ふふっ……」
 美香は両の手を胸の前で握り締め後ずさりする。顔をイヤイヤと左右に振りながら……。SMという行為があるのは知っているが、どうしてもそのような行為が正常な行為に思えない。ましてや自分がそのような行為に巻き込まれるなんて想像も出来なかった。尻込みする美香を尻目に佐々木は、服を全部脱ぎ棄てた。
「義弟さんの一物と比べてどうですか? 私の物もなかなかでしょう?」
 美香に自分の腰にぶら下る肉根を見せながら言う。美香と義弟との関係も知っていることを臭わせながら……。
「若さには敵わないかもしれませんが、義弟さんのもにはこんな細工はないでしょう?」
 佐々木が誇らしげに自分のものを振ってみせる。美香の目に映るそれは、隣室の壁に下げられている縄やムチと同様、まさに凶器のようだった。太く長い肉根に、ブツブツと瘤が浮き上がっている。
「女を喜ばせる為にシリコンを埋め込ませてあるんですよ。このイボイボはきっとあなたを虜にしますよ」
(イヤッ、あんなもので突かれたら……どうなるの? わたし……)
 美香は恐怖に佐々木から視線を逸らし後ずさった。

 怯える美香を見た佐々木は、美香の決心を促すように言う。
「帰ってもいいんですよ。そうなればどうなるか判っているんでしょ?」
 佐々木はテーブルに置いてあった携帯を取り上げ、弄りながら美香を見据える。
「私は商談が決裂したことを、篠原に伝えるだけですがね、ふふふ……」
(この男もあのこと……、昇さんとのこと知っているんだわ。今帰ったら、篠原に連絡される……)
 篠原に連絡されれば、全てを町中に知られてしまう。篠原ならやりかねない。AVに出演させられた過去も、義弟と関係を持ってしまったことも。そんな恐れが美香の脳裏に渦巻く。愛する夫との家庭も崩壊するだろう、そして義弟の昇の未来も崩れ去ってしまう。美香は唇を振るわせた。

「さあ、脱いでください。あっ、下着は残してください。その方が色っぽいですから……」
 佐々木は、美香が断れないことを確信したように言った。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊