獣欲の生贄
フェラ男優:作

■ 洗礼1

矢及 菜実は都内私立女子高の二年生、カトリック系のお嬢様学校で有名な厳しい校風の学園に通っている。 友達には名の知れた実業家を父にもつ子もいたし、菜実の父親もIT企業の成長で昨年までは立派な社長であった。
粉飾決済とインサイダー取引の疑惑がかけられる前までは……。
 瞬く間に会社の株は紙切れ同然に価値のないものとなった、関連会社は倒産し、取引先は離れ、菜実の父の会社は僅か半年で、もはや風前の灯という感じだった。 学園内でも当然話題になり、菜実はつらい思いをしていた。 父は心労から倒れ、先週から入院していた。

菜実はクラスでも人気があった。
瞳の大きい小さめの顔はアイドルのように可愛らしく、髪は柔らかに薄く栗色がかかって細く太陽の光に美しく輝いた。 小さめでぽっちゃりとした感じの唇はリップグロスのせいか艶やかに光り、紅をさしてもいないのに艶めかしく見えることもある。 身長は158cmと高校生にしては小柄だが、学園のブレザーの純白のシャツ越しにも、身体のラインのめりはりがわかるほど、肉感的に発育していた。 しかし、けっして太っているわけでもなく、体育着になるとウエストの細さがなおさら際立ち、脚も長く、けっして骨太というわけでもない。 グラビアアイドルとして写真集を出してもおかしくない、魅惑的な肉体だった。
天は二物どころか、優れたものにはよくよく才能というのは集まっているように凡人には思えるものだ、菜実もそのスタイルと美貌のほかに校内でもトップクラスの成績を常におさめていたし、運動部には入っていなかったが漫画やイラスト、美術の絵画などは抜き出た才能を発揮して周りを驚かせていた。

菜実のまわりにも最近、父の関連会社の人間とおぼしき男達が現れるようになっていた。
父が失踪でもしたら大変なのだろう、家族ぐるみで監視されているような気がした。 菜実は耐えられなかった。
若くして菜実が産まれたとき、父はまだ26歳だった。 大学で学生結婚をしそのまま企業を起こしたのだ。
菜実は女子校に通わされたこともあり、そんな若い父を兄のように、ときには恋人のように思ってきたのである、年頃になるとママに嫉妬さえいだいたこともあった。 そんな父が犯罪者のように扱われるのは耐えられないことだった。 心労で倒れた父にずっと付き添い励ましてあげたかった、ママの代わりに菜実がしてあげられることならなんでもしてあげたかった。
(パパ……菜実が助けてあげる。 菜実はずっとパパと一緒だよ……)
実の娘以上の激しい感情が菜実の心を染めていった。

菜実の前にある男が現れたのは、一ヶ月前のことだった。 父の会社の役員だと名乗ったその男は、その後再び菜実の帰宅途中を待ちぶせ、菜実に衝撃的な要求を突きつけたのだった。
IT企業はその製品のシェアが独占できるほどヒットが出れば会社の成長も大きいのが特徴だが、そのぶん大手メーカーは他社をマークし新製品や企画を潰しにかかるのも常だった。 その有様は素人がはたからみても今日甚だしい独占状態のように見えるし、政治経済を仕切るご老体には進歩のスピードが速すぎて目に留まらないのかもしれない。
菜実はその男から父の会社の買収先が決まりそうだと言われたのだった、そのメーカーは菜実も知っているほど有名な企業であった。 ―なぜ、娘のわたしに? 当然のように菜実は不思議に思った、父の会社の存続を左右するような話に、一見なんの関係も無い社長の娘が耳にしなければならないのだろうか、菜実は訝しげに聞いていた。
「菜実ちゃん……これは、実は君のお父さんにもまだお話していないんだ。 でもけっして嘘じゃない、これにはちょっと因縁じみた理由があるんだ。 うちの社長が君のお父さんと同じ大学で研究していたことがあって、それが今回の助ける理由なんだけど……それが……」
男はそこで声をつまらせた。
「それが……、父の友人だからですか」
「実は、その逆なんだ……君のお父さんが今の会社を起こした製品を共同研究していたのは事実なんだが、二人は同じ人を愛していた……」
「母……ですか」
菜実はごくりと唾を呑んだ、初めて聞く両親のなれそめだった。
「はっきり言おう。 うちの社長は君のお父さんを激しく今も憎んでいるんだ、今回のスキャンダルもうちの会社が流した情報に起因している、ただ、それ自体はこの業界では珍しくも無い話だが……」
男は真面目な顔つきで早口に言った。
「母と結婚したことを恨んでいるんですか……」
菜実は小さな声で訊いた。
「……そう、それが一番だろう……そして、だから娘の君にこんな重大な選択を迫っているのだと思う」
「娘のわたしに……どうしろと……」
菜実は恐々と尋ねた。
「これ以上は、うちの社長に聞いてほしい……僕の口から言うのもはばかられるようなことかもしれない……」
菜実は悲しくなった、そして身体が微かに震える。
「なぜ、ママじゃなくて……わたしなの……」
身体を震わせながら、菜実は覚悟を決めているのか父を助けるために自分を奮い立たせているようにも見えた。
「察しはついただろう……あとは君次第なんだ、この話は誰にもしていないし断るならそれでいい君には関係のないことだし、誰に責められることもないだろう、ただし、うちの会社が助けることもなくなるかもしれないが……」
男は説明するようにきわめて事務的に話した。
「……社長に会って、話だけでも聞いてみるかい?」
「……」
菜実はうつむきながら、しばらくしてコクリと頷いた。

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