青春の陽炎
横尾茂明:作

■ 片思いの少女1

 教室に戻る途中、他の教室の廊下に面した窓から、敏夫が手招きしていた。
敏夫はマサルの幼稚園時代からの幼なじみである。マサルより頭が一つ分大きく大人顔だから、私服を着ると高校生とは全く見えず、粗暴さが顔に出るのか街のヤクザそのものであった。

 敏夫は昔から乱暴者で、友人と呼べる学友はいないが、マサルにだけは何故か例外であり、こちらは遠慮したいのに、まるでマサルを弟に対する接し方なのである。

 敏夫のマサルへの対応は少々エキセントリックでもあった。
敏夫はマサルの思春期のモヤモヤを、マサルには到底手に入らないエロ雑誌や、裏ビデオを家に呼んで見せたり、マサルが中学1年の時、泣き顔の少女が、腹の出た禿げおやじに足を思い切り広げられ、どす黒くヌラヌラ光るペニスを差し込まれている写真を見せ、ショックで息も継げないマサルに、
「いいこと教えてやると」
と言って、嫌がるマサルのズボンを脱がせ、いきなりマサルのペニスを揉み始めた事が有った。

 マサルがその時にめくるめく快感を得、また精液が3mも飛ぶところを見、これがオナニーなのかと、痺れる思いで己の体の神秘、且つ淫靡な部分を知った。

 それ以来敏夫はマサルにエロ雑誌を見せながら、互いに陰茎を握り合うのを強要し、相互オナニーに耽った狂おしい日々を、今でも鮮明に思い出される。

 敏夫が高校2年の時、父親が富山の某銀行の支店長として赴任し、敏夫も一緒に富山に行く予定であったが、3年前に死別した母と……、父との確執が敏夫を頑なにしたのか、敏夫は富山行きを頑として拒んだ。

 父親には当時、再婚の話しが進んでおり蜜月に不良息子は邪魔と感じたのか、敏夫の自由に任せた形となったのである。
敏夫はそれ以来タガが外れたように悪くなっていき、次第にマサルは敬遠するようになっていった。


 マサルは遠慮気味に敏夫に近づいた。
この学校の番長でもある敏夫の廻りにはいつも学校の不良連中が取り巻いており、敏夫の親友と言われているマサルは、この不良達には一目置かれる存在でもあった。

 「マサル、放課後あいてるか」 と、いつものぶっきらぼうな物言いである。
「塾は休みだから特に何も無いけど」 と言ってから
(しまった!)
と思ったが手遅れである。
「だったら7時に俺んちに来い!」
「絶対だぞ!」
ニヤニヤ笑いながらいい物見せてやると、何かいわく有りげな口調で目配せした。

 放課後、マサルは今朝の由紀先生の言葉を反芻し、日曜が待ちこがれる思いで家路についた。
家に着くと母親はまだパート仕事から帰っておらず、秋の薄日の射した居間は寂しい雰囲気を醸し出していた。

 もう秋か……、受験の日まではもう僅か、由紀先生に夢中な自分……、由紀先生を想いオナニーに明け暮れる自分……に、マサルは言い知れぬ嫌悪感を感じた。

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