青春の陽炎
横尾茂明:作
■ 奸計1
あれから1年近く経った今……。
この扉の向こうに又同じ光景をデジャブーの如く感じた。
マサルはドアの前に立った。
ドアの向こうに人の気配が感じられるが、マサルは扉を開けるのを躊躇した。
開けたら何か取り返しのつかない禍いが我が身に降りかかるような…動物的な臭いである。
マサルはゆっくりと踵を返し始めたその時
「マサル!来たのか」
とドアの向こうから声…
マサルは一瞬躊躇したが、諦めたように
「うん」
と応えてしまった。
「入れ」
の声に釣られるようにマサルはドアをそーっと開けた……!
異様な明るさの照度に照らされた部屋の中の光景は、
まるでフラッシュバックの様に、あの去年の8月の痛烈な陽光を蘇らせていった。
敏夫の笑顔が浮かび…次に女の真っ白な双尻が浮かび、次に敏夫の投げ出された内股を枕に、大きく肩で息をする端正な横顔の朦朧とした女の顔が浮かび上がった。
それらは一連の映像であるのに、まるでマサルの心の願望をさも映し出す独立した写真のようでもあった。
全体の輪郭がマサルの脳裏で現実化したとき、
「マサル!何をボーと突っ立ってるんだ」
と敏夫の声。
その声に弾かれるように女がこちらを見た。
「あっ」
…なんと女は紛れもなく担任の白石由紀先生であった。
そして先生の目はこれ以上開かないまで大きく開けると、つんざく様な悲鳴で
「いやー!」
と叫び、敏夫の股間に隠れるような仕草で、体がこれ以上小さくならないというほど身を縮めガタガタ震えはじめた。
「マサルちょうどいいとこに来たなー、今終わったとこだ」
と敏夫も肩で大きく息をしながらベットの横のティシュを数枚取り出しマサルに突き出した。
「先生の尻を拭け!」
…さも当たり前の物言いである。
マサルは声に釣られるようにフラフラとつんのめるように歩き、敏夫の手からティッシュを受け取った。
ティッシュを持ち、改めて先生の尻を見た…。
腰から尻にかけての優美なフォルムと、成熟した柔らかな双尻の深く暗い亀裂は、マサルの心をとろかすに充分に足る深淵であった。
マサルはティッシュを恐る恐る、小刻みに震える真っ白な美尻に、そーっと当てた…その刹那、またもや先生のつんざくような悲鳴と、
「敏夫さん、もー堪忍して」
と、まるで子供が泣きじゃくるように由紀はわんわん泣き出した。
「マサル!かまうこたーねーから拭け!」
と一喝、マサルは弾かれたようにティッシュを股間に押し当てた…
グイっと回転させるような拭き方を見た敏夫は、
「おっ!拭き方を心得てんなー」
と揶揄。
「由紀!何をメソメソしてやがる、いつものように始末をせんか!」
と怒鳴る。
「あなた…きょうは堪忍して」
「マサル君は帰して」
「マサル君だけには見られたくないの」
とまた由紀は泣き出した。
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