青春の陽炎
横尾茂明:作

■ 奸計5

 由紀は夢の中で笑い声を聞いたと思った。
それがドンドン現実味を帯びゲラゲラと響く大声で我に返った……。

 視覚は少しずつ戻り意識もはっきりしてきた。
と同時に言い知れぬ恐怖から思わず由紀は、
「キャーッ」
と叫んだ。

「先生!やっとお目覚めですか」
の声に…声の方向を見た…声の主の輪郭がはっきりしたとき…由紀は全てを思い出した。

 反射的に起きあがろうとした…しかし自分の体が自由にならない。
縛られている…と思った時、腹部に薄ら寒さを覚え自分が全裸で有ることに気づいた。再び
「キャーッ」
と叫んだ。

「キャーキャーうるさい女だなー」
と、敏夫とは異なる声が頭の上の方で聞こえた…。
由紀は今・自分の置かれた危険な状態を、尿のほとばしりそうな恐怖の中で感じた。

 肛門を必死に締め、失禁を辛うじて押しとどめ、敏夫に向かって
「あ、あなた達…、何なのー!」
と叫んだ。

「先生、もう観念しなよ…。裸で縛られてりゃー、何なの、もクソもねーもんだ」
「やるこたー一つだぜ…。先生よー」
と頭の方で声がする方向を由紀は顎を上げ見た……と、そこには先ほど由紀を引き倒した男がニヤニヤ笑い立っていた。

「あなた達…グルだったのね!」
と言い放った時、由紀は言い知れぬ恐怖を感じた。
高校生ではない…彼らは少年ではない!、狡猾に仕組み、獲物を罠に追い込み手中にする手法……倫理感の埒外に存在する陰獣。

 由紀は恐怖のあまり耐えていた尿意のタガが外れ、ガタガタ震えながらチョロチョロ失禁し始めた。

 「おいおい勘弁してくれよ先生、俺の布団に寝小便するんじゃねーよ」
と言いつつ敏夫は慌てて由紀の足を持ちベットの下へ由紀を放り投げた。

「ギャフン」
の衝撃でまたもや由紀は小便を股間から少し漏らした。

「テメー! 人の部屋で小便ちびるとはいい度胸じゃねーか」
敏夫は言い放つと同時に躊躇なく足蹴りを由紀の顔面放った。
 
 足の甲は由紀の顔面に鈍い衝撃を与え、由紀の頭は壁近くまではね飛ばされた。
朦朧とする意識の中で由紀は引きつるような恐怖を感じ、尿道は完全に開き、シャーの音と共に、カーペットに黒いシミがみるみる広がって行った。

 敏夫は拳で由紀の顔をさらに数発殴り、腹を蹴った…。さらに殴り掛かろうとする敏夫をヒロシが懸命に止めた。

「敏夫さん…、チョットやりすぎじゃねーかなー」
「やかましい! ヒロシ、てめーこんな事ぐれーでビビルなら帰れ! バカヤロー」

…ドアの開く音がして…閉まる音がした…。そして静寂が訪れた。

 由紀は引き付けの発作を起こした子供のように体をガクガク痙攣させ、口から血の泡を床に撒き散らした、あまりの恐怖に目に映る景色が真っ赤に燃えた…。胃の内容物を吐瀉し咳き込みながら目は本能歴に隠れる所を探した。

 敏夫は由紀の髪を掴むと、
「この野郎」
と叫び反対の壁まで投げ飛ばした…。由紀は体ごと壁に激突し(殺される)という想いの中で意識は薄れて行った。

 由紀は敏夫の腕の中で意識を取り戻した。…ハッと我に返り目の前の敏夫に気がつくと由紀は敏夫の胸を押してもがいた…。敏夫は由紀の頬を叩いた、由紀はその衝撃に凍り付いた、目眩とともに鼻の奥にから喉に垂れる錆臭い液体にむせ、弾かれるように大声で泣き始めた。

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